指宿から「なのはなDX」と九州新幹線を乗り継いで薩摩川内に向かった。ローカル線ののどかな旅とは対照的に、新幹線は数多くのトンネルで山を貫き、あっという間に川内に到着。在来線なら1時間掛かる距離を、たった10分で走り抜ける。車窓からの景色は楽しめるというほどではないが、そのスピード感とユニークな車内のアコモデーションを満喫するには10分は短すぎた。
川内市での公演を終え、スタッフたちと共に会場近くの店で食事をした。そこは「琲珈里」という炭火焼の店だった。店名が示す通り、カフェスペースも設けられており、喫茶のみでの利用も可能だが、古民家を改装した独特の雰囲気を満喫するには、囲炉裏を囲んで楽しめる炭火焼がオススメだ。寺山の麓の静かな環境にあり、庭には水琴窟が澄んだ音を響かせている。女将さんが一人で切り盛りするこの店は、かつて焼き鳥屋を営んでいたという亡きご亭主の思いを引き継いでオープンさせたのだとか。きっと女将さんの胸の内では、今も一人きりではないという気持ちが支えになっているのだろう。料理は手作りで、漬け物やキノコのおにぎりなど、どれも美味しい。そして、食べて飲んで一人3,000円程度と、とてもリーズナブルだった。
ホテルに到着したのは23時頃だった。またこの宿に泊まる機会があるとは、思ってもいなかったが、不思議に親しみを感じるホテルだ。すでに門限を過ぎて施錠されているのでは?と不安になるほど、看板もロビーも照明を落として真っ暗だった。だが、自動ドアはすんなりと開いた。すると、カウンターの明かりが点き、次いでロビーが明るくなると、フロントに2人の係が出てきた。ホテルマンというよりは、ラーメン屋さんの旦那という感じだが、二人とも陽気で親切だった。
部屋は広いツインルームが用意された。と言っても20平米あるかないかで、廊下部分がやけに長く、クの字に回りこんだところに居室があるというユニークなレイアウト。セミダブルベッドが2台あり、カバーを外すと綿布団がかぶさっているというのも珍しい。
今回こそは地下にある温泉大浴場が使えるといいなと思っていた。だが、案内には浴場が使えるのは22時までとなっている。それでも様子を見に行ってみたが、すでに消灯されていた。ダメもとでフロントに聞いてみると、あっさり「どうぞ、どうぞ」とのこと。ちょっとしたことだが、この融通がとても嬉しい。浴場はプールサイドのジャクージほどしかない小さな湯船だが、湯は清潔で一日の疲れがすっかりとほぐれた。翌朝は8時半に出発。9時間少々の短い滞在だったが、このホテルとはまだ縁が続くような気がした。
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