連休の賑わいも一段落着いたのか、金曜日の箱根にしてはゆったりとした雰囲気だった。芦ノ湖が近づくころには雨が降り出し、ひんやりとした湿った空気が心地よかった。
ホテルに着いて、部屋のバルコニーから湖を眺めると、急に時が止まって、絵の世界に迷い込んだような感覚になった。薄墨色の風景の中、霧雨に濡れながら釣り糸を垂れる小舟も、まるで描かれたもののよう。聞こえるのは、燕の鳴き声だけ。迫り出したホテルの屋根裏にたくさんの巣があり、雛に餌を運ぶ親鳥が、忙しく飛び交っている。箱根に来てよかった。そう思う瞬間だった。
夕刻を過ぎて、館内は多くの宿泊客で賑わい始めた。別世界のような静けさは、次第に人間の活気が放つ波動の狭間に埋もれていった。やはり時期だけに家族連れが多いのだろう。隣室からも浮かれてはしゃぎまわる子供の声が響いてくる。
今回利用した客室はジュニアスイート。55平米の面積があり、湖を正面に望むバルコニーが大きな特徴だ。このホテルには6室のジュニアスイートがあり、インテリアやレイアウトは微妙に異なっているようだ。
入口を入るとホワイエがあり、クローゼットとバスルームへの扉が設けられている。内扉の先に居室があり、リビングとベッドスペースが一体化したワンルームタイプだ。昼間見ると、カーペットや壁紙の汚れがとても気になった。そろそろ改装が必要だろう。空調吹き出し口の汚れや、その作動音もかなりのものだ。
居室に入ると、手前には140センチ幅ベッドを2台、ハリウッドスタイルに並べたベッドスペースがあり、ベッドに寝転びながら大きなスクリーンに映した映像を楽しめるプロジェクターが設置されている。やや古い設備ではあるが、他ではなかなかお目にかかれない。テレビも映るが、ビデオデッキも備わっており、無料でレンタルできるソフトもある。ただ、映写中は、プロジェクターの作動音が気になった。
ベッドの脇にはリビングを向いたデスクユニットがある。リビングスペースとベッドスペースの間はスキップフロアになっており、デスク横の階段を2段降りるとリビングスペース。リビングには、リゾート風のテーブルセットがある。一人用の椅子が4脚あり、いずれも籐でできている。また、リビングにもテレビが設置されており、440ch有線放送も聴ける。大きな窓からは芦ノ湖を一望し、バルコニーにもテーブルセットがあるので、湖畔の空気を存分に楽しめるのがいい。
バスルームも広い。全体に大理石を使い、ダブルベイシンとトイレのあるコーナーと、バスタブとシャワースペースのコーナーはガラスで仕切られている。いずれもイタリア風の瀟洒なデザインで、サイズも大きい。とりわけバスタブは長さがあって、よほどの長身でないと、バスタブに浸かっても向こうに足が届かないだろう。シャワースペースも数人は入れるような広さだが、湯温が不安定で使いにくかった。3階には男女入れ替え制の温泉浴場もある。せっかくの箱根だから、部屋の風呂よりは、温泉につかるほうがよいかもしれない。
アメニティは段々しょぼくなってきた。タオルも使い古され黒っぽい。シーツの肌触りの悪さも気になるところ。バスローブは備わっている。また、周囲の音がよく響いていた。プロジェクター用スクリーンを上下する音、扉の音、シャワーの音、話し声など、いずれもよく聞こえていた。ルームサービスは夜軽食とコンチネンタルブレックファストのみ。朝食のデリバリーは朝8:00または9:30と指定されており、融通は利かないようだ。
その代わり、レストランでの朝食はとても充実していた。以前、レストランは和食と洋食の二店舗に分かれていたが、思い切って和食を廃止し、洋食一本にした。旅館がひしめく箱根で、あくまで西洋風のホテルスタイルにこだわるというのも、いいアイデアかもしれない。朝食から、きちんとしたメインダイニングらしいサービスで客を迎える姿勢も気持ちがいい。
セットメニューでもメインディッシュを選ぶことができ、ポーチドエッグだけでもフローレンス風、ローマ風、ボンベイ風と揃えている。今回はフローレンス風を頼んでみた。ほうれん草とベシャメルソースが上出来のポーチドエッグとよく調和して美味しかった。サラダの盛り付けひとつを取っても美しい。コーヒーの代わりにココアを注文したが、これまた美味しかった。以前に比べ、格段にグレードアップした印象。この朝食のためにまた箱根を訪れたくなった。
|