この日の予約は35平米のデラックスルームで入れてあったが、チェックイン時に、追加料金を支払うのでデラックスプラスルームに変更して欲しいと申し出た。フロント係は端末を操作し、喫煙室でよければ用意できるというので、そのようにしてもらった。
渡されたルームキーは9階にある客室のものだった。記憶によれば、プラスルームは10階から12階だったので、9階もプラスルームなのかと確認したところ、そうだとの返答。やや疑わしく感じたが、係に断言されては仕方がない。更にレギュラールームとプラスルームの違いは何かと尋ねると、プラスは高層階に位置していてアメニティが違うのだという。
部屋に入ってみると、いつものデラックスルームと同じように見えた。では、アメニティは違うのだろうか。バスルームや引き出しを見るが、これ以上減らしようのない最低限のセッティングだ。仮にどこかに差があるのだとしても、それを客が実感できないのであれば価値がない。よくよく見ると、ナイトランプの付け根が壊れていた。どこかで見覚えがある壊れ方だと思ったら、ここは昨年宿泊したのとまったく同じ客室だった。やはりここはプラスルームではない。
しかし、この部屋はなんともカビ臭い。どこが原因かと思ったら、アメニティが入れられているカゴだった。カゴの底はカビの密林になっている。居室は埃っぽいし、二重構造の窓は、内側が完全に結露して拭きようもなく、景色は何も見えない。朝方には日が差して窓は乾いたが、結局窓は汚れで曇ったままで、相変わらず視界ゼロだった。
テレビは最近液晶に入れ替わった。ディスカバリーチャンネル、ムービープラス、MTVの3点セットが見られるのはいい。だが、室内のインテリアはカラースキムが陰気で、広いのに気が滅入る。ミニバーと引き出しが合体したキャビネット上には、湯沸しや茶器が並び、その傍らにスタンドが据え付けてある。ミラーもキャビネットの上にあるが、ここで身だしなみを整えるのは難しい。
照明はシーリングライトがあって十分な照度が得られるが、やけに白々しくて気に入らない。かといって消灯すると、残りのスタンドだけでは薄暗くて、陰気な部屋がますます陰気になる。異常に高い湿度といい、雰囲気的にはお化け屋敷みたい。バスタブに湯を張ったら、バスタブの床に貼ってある滑り止めが、徐々に剥がれて全てが浮いてくる。トイレには洗浄機能つき便座はなく、栓の締まり悪いのか、ぴちゃりぴちゃりと水の滴る音がしている。ホラーの舞台は整っているが、ジェイソンも貞子も現れなかった。
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