飾らない時間を過ごしたいと思い、ふらりと新潟を訪ねることにした。宿は以前にも利用したことのある長生館を選んだ。新津駅からの送迎バスを予約してあったので、新潟駅からローカル線に乗り換えて新津駅に降り立った。かつては特急列車が往来した駅だが、新幹線ができてからはすっかり静かになったようだ。少し早く着き過ぎたかと思ったが、すでに送迎バスが待っていた。
バスは思いのほか混雑した。若い女性グループや老夫婦が多い。従業員が運転するバスは、まるで観光バスのように道すがらの名所や地域の話題をアナウンスするサービスがある。更に、この時期多数の白鳥が飛来している瓢湖に立ち寄り、30分程度の観光タイムを取るという熱の入れよう。湖畔では思いがけず白鳥や鴨たちを眺めることができ、土産話がひとつ増えた。
宿に着くと従業員が総出で出迎え、客たちはそれぞれにチェックインを済ませて、部屋へと散っていった。一瞬、山間の静かな宿は若い客で賑わい、華やいだ雰囲気に包まれる。だが、部屋に一歩入れば、落ち着いた佇まいに、身も心も開放される。窓を開けて庭園と杉林を渡る冷たい風を一杯に吸い込むと、頭の中が瞬時にシャキッとするのが実感できる。大粒の雨が降ったかと思えば、急に雪が舞うなど、変わりやすい天候が山里ならではの風情を運ぶ。
仲居たちはいつも通りに素朴な人情をにじませて、甲斐甲斐しく振舞っている。媚びたようなサービスはしないし、こちらもまったく気を遣わずに自分のペースで過ごせるのがいい。夕食事は客室で。郷土の味や手作りの品が並び、派手ではないが体が喜ぶ料理が多い。食事の後はゆっくりと温泉に浸かる。館内は賑わっているのに、何度温泉に行っても人と出会わなかった。広い岩風呂で、静けさの中、天から舞う雪を眺めるのは最高だ。
朝食は庭園を望む広間で出される。とにかく水がいいのだろう、薄味なのに思わずうならずにいられなかったのは味噌汁だった。朝食を食べ終わる頃には、豪雪が降り出した。ラウンジでコーヒーを飲みながら、ひたすら雪を眺める。都会では味わえない安らぎがそこにはあった。
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