桜木町駅間近のブリーズベイホテルは、雁行したハーフミラーが複雑に光を反射して刻々と表情を変える。まるで街の活気を映し出す巨大なスクリーンのようだ。大きすぎない規模とやさしい色使いの客室が、ヨコハマのイメージによくマッチする洒落たホテルだったのに、いつのまにか荒れて薄汚くなってしまった。あんなにかわいかった子が、今はバリバリの不良少女になっちゃったという感じに。
ふつうホテルに足を踏み入れると、喧騒から引き離されてホテルならではの空気感にホッと一息つけるものだ。だが、この日、ブリーズベイホテルのエントランスに入っても、まるで雑居ビルにいるような感覚しか得られなかった。吹き抜けのエントランスロビーは雑然とした感じ。チェックイン時に禁煙ルームがあればとリクエストしたが、用意してないと一蹴されるなど、フロントの対応もつっけんどんだった。
アサインされたのは、客室としては最も低層階にあたる6階の街側ツイン。エレベータホール間近なのもあまり好みではないが、5階の宴会場フロアから上がってくる独特の臭気と、客室のすえたにおいが混ざり合い、吐き気がするような環境だった。まあ、仕方がない。我慢するとしよう。
室内を見回すと、やっぱり備品は結構立派だ。しっかりとした家具は大切に使えば長持ちするはずなのに、あちこちに傷みが見られて気の毒。ヘッドボードには不織布を掛けて、直接汚れが付かないようにするなど工夫も見られるが、いささか手遅れの感もある。ベッドはへたっているし、寝具のセッティングも来る度に簡略化され、枕は薄っぺらのものがひとつになってしまった。
バスルームは、見た感じ異常なしだったが、シャワーを浴びていたら問題が生じた。きちんとシャワーカーテンを引いていても、水がバスタブのヘリを伝って、バスタブの一番頭に近い縁からまるで滝のように床に流れ落ち、床一面が湖になってしまった。なぜだろうと思ったが、よく見るとバスタブの頭の方が低くなるように設置してしまっていることが原因だ。これは今日、昨日起こったことでなく、開業当時からに違いない。バスタブは排水勾配を計算にいれて設置しなくてはならないが、それがまったく逆になっているとうのは工事ミスだ。それが今なお放置されているのには驚いた。
ひどいホテルだとがっかりしているところに、強烈なトドメをさしたのは、隣室のバカップルだった。日付が変わる前から賑やかだなとは思っていたが、酔いが回ってきたのか、次第に騒ぎがエスカレートしていった。通常は出ることのできない非難用のバルコニーに出て酒を浴びているらしく、窓越しに男女の下品な笑いと卑猥な会話が聞こえてくる。フロントに文句を言ったところ、「お客様もお隣のご一行様ですよねぇ?」などと訳のわからない失礼な返答をする始末。
とにかく静かにさせてくれと頼むと、しばらくして係が隣のチャイムを鳴らして注意を促した。壁が薄いのと廊下の音がよく聞こえる構造から、係が注意をする様子も手に取るようにうかがい知れる。それで静かになるかと思いきや、隣のバカップルにこちらの存在を知られてしまったことで、今度はバルコニーを乗り越えて、こちらの窓に向かって「ねー、一緒に飲みましょうよー」と声を掛けてきた。カーテンを閉じてひたすら無視していたが、拷問のような耐えがたい滞在となってしまった。チェックアウト時にはフロントで一言詫びがあるどころか、ツンケンとした感じの悪い女性の係に、そっけなく会計を済まされ、はいさようならという感じにあしらわれた。なんと後味の悪いことか。
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