改装を終えた本館のシングルルームに宿泊してみた。新館フロントでスムーズにチェックインを済ませ、珍しく感じのよいベルマンに付き添われながら、天井の低い本館連絡通路を通って、本館3階の客室に向かった。客室フロアは落ち着いた色調に照明のコントラストが美しい垢抜けたインテリアに生まれ変わった。エレガントで重厚感のある家具が、伝統のあるホテルに相応しい風格を演出している。
白く塗られた客室扉もまた、それぞれの扉の奥で始まるドラマを予感させる。扉の脇のウォールライトも洒落ている。しかし、シングルルームは予想以上に狭かった。港町には狭い部屋がよく似合い、かえって旅情をかきたてるのだが、今回はそれどころではなかった。愛想はいいが大柄なベルマンと共に部屋に入ると、もうそれだけで息苦しくなるほどで、申し出られた部屋の説明を丁重に辞退して早々にお引取り願った。
予約の時は20平米と案内されたが、とてもそのように思えない。実感としては15平米にやや欠ける印象だ。セミダブルベッドは清潔感があり寝心地も上々だが、実に3方向を壁などに囲まれているため、かなりの閉塞感がある。よくこんな狭い場所にベッドを押し込んだものだと感心すると同時に、客室係もさぞベッドメイクが困難だろうと同情する。窓はそれほど大きくないが、思い切り開放できるのがいい。天井から下がるドレープはレイヤーになっており、タッセルでまとめられ、高級感をかもし出している。
家具はクローゼットからデスクに至るまですべて置き家具。楕円形のデスクを窓に向けて配置したが、このような狭い客室には壁の形にあった家具を置いてもらわないと、あちこちにできたデッドスペースがもったいない。テレビの下にある冷蔵庫の扉を開けようにも、デスクの脚につっかかって思うようにできないなど、使いやすさを完全に無視した部屋作りをしてしまったようだ。
照明はデスク上のハロゲンダウンライト、デスクのスタンド、ナイトランプのみで、デスクは明るいがベッドの奥あたりはいつも暗いなど、バランスが悪い。イスはデスクに添えられたもの1脚のみなので、くつろぐ場所もない。鏡はベイシンにしかなく、全身を映せる場所もない。LANもない、BGMもない、と、ないないづくしだ。
その中でバスルームには気合が入っていた。大理石を張り、エレガントなデザインのミラーがいいアクセントになっている。居室の窮屈さに比べたら、かなりゆったりと取られているし、ハロゲンの照明が美しい。バスルーム扉はすりガラスを格子にはめた引き戸を使った。扉が邪魔にならないのが、この狭さでは非常にありがたい。
バスタブは通常とは逆の配置で、カランが手前に付いている。バスタブに浸かるとき、バスルームの入口方面を向いて入れるので、視線が開放的なのがいい。バスタブそのものは浅くて短いが、シャワーは心地よく、レイヤーのシャワーカーテンも優雅な印象だ。タオルは3サイズが1枚ずつ。バスローブとワッフルのガウンを備え、アメニティもニューグランドの標準的な品揃え。ベイシンだけがやや暗いのが気になった。
今回の本館改装では、オーセンティックなクラシックホテルに相応しい質感を持った客室が誕生したが、使い勝手という点では不便を感じた。客室は見るものではなく、過ごす場所だ。高い質感と居心地のよさを同時に満たすデザインを心がけて欲しいものだ。
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