神戸の定宿はほぼオークラに決めていたが、今回はあえてご無沙汰のホテルに泊まってみた。本館にエグゼクティブフロア「オーバルクラブ」を完成させ、コンサートができる国際会議場ポートピアホールを設けるなど、ますます充実したホテルになった。また、最近になってパブリックスペースや宴会場のインテリアがリフレッシュし、ここのところ空気が重かった神戸のホテルの中で、ひときわ光っている。それには、神戸の街全体のイメージをアップする力があるほどだ。
ホテルまでのアクセスは、タクシーを使わずに、ポートライナーに乗った。ビルの谷間をのんびりと縫うように進み、真っ赤な神戸大橋を渡ってポートアイランドに入る小さな車両は、神戸の景観の一部としてすっかり定着した。開通した時から、車内放送は日本語と英語の両方でされていたが、当時はそれがまだ珍しかった。市民広場駅から連絡橋を渡って、ホテル2階のショッピングアーケード口から館内に入ると、懐かしいにおいがした。ポートピアホテル独特のにおいだ。絨毯はすっかりモダンになり、ところどころ内装が変わっているが、ポートピアホテルらしい空気が流れていた。
エスカレータでフロントのある1階へ下りると、ディレクタースーツに身を包んだグリーターが案内をしてくれる。このホテルではベルアテンダントとは別に、館内の案内を専門に受け持つグリーターという係が待機している。さすがに元旦ということもあり、広いパブリックスペースはどこも混雑しており、チェックインにも少し時間がかかった。
改装されたロビーは、楕円形のスケール感のあるフロアに、多数のソファやチェアが置かれ、だれでも自由にくつろぐことができる憩いのスペースだ。周囲には心和む水の流れを配置し、見上げれば大車輪のようなシャンデリアに圧倒される。最近はこのようなダイナミックなロビーが少なくなってしまったが、子供の頃は、こうした広いロビーを見る度に興奮したものだ。
ロビーのスケールに対して、フロントはこぢんまりとしている。チェックインラッシュに備え、カウンターの中には十分な数の係が立っていた。対応はフレンドリーで、自然体だった。グリーターに客室まで案内をしてもらったが、明るく親しみのある雰囲気で、いろいろと話しかけてくれる。案内された客室がタバコ臭かったので困っていると、直ぐに他の部屋を探すなど、積極的行動を取り、要望には真心で応えてくれているようだった。正月でこの上なく忙しいはずなのに、おざなりなサービスで片付けなかったのは、素晴らしい心がけだ。建物全体にもサービスからも活気が感じられ、ポートピアホテルが生き生きと次のステップを歩み始めていることが実感できた。
地階の宴会場では、ホテルの正月ならではのイベントが多数行われていた。学園祭にも通ずる雰囲気で、幅広い年齢層のゲストで賑わっていた。大宴会場では、縁日の屋台のようなブースがたくさん設けられ、軽食やスナックが楽しめる。舞台ではビンゴ大会が開かれ、協賛各社からさまざまな商品が提供されていたが、残念ながらハズレだった。
滞在した客室は、南館のジュニアスイートだ。オーバルクラブに泊まってみたかったが、あいにく満室だった。南館のフロアも一部改装が済んでいる。11階はヒーリングフロア、14階はデラックスフロアとして、新しいインテリアの客室がある。今回は、昔ながらのフロアの先端にある客室を利用した。長い廊下の突き当たりに扉がある。部屋に入ると、半円のカタチをしたリビングルームになっており、ほぼ180度の広い窓に圧倒される。
太い2本の柱が邪魔だが、ポートピアランドや、神戸空港の工事現場、遠くには淡路島などが一望でき、時間帯を問わずワイドな景観が楽しませてくれる。4人用のソファセット、2人用のダイニングセットのほか、旧式ながら充実したオーディオ設備を備えている。大きな窓はインパクトがあり、この部屋の命でもある。しかし、昨晩は子供連れが滞在していたのか、窓には唾液まみれの小さな手跡でびっちりと埋め尽くされており、清掃の不足を感じさせた。
扉の奥には、ベッドルームがある。仕切りの上部にわずかな空間があるものの、リビングとベッドルームは完全に仕切られるので、ちゃんとしたスイートだと言ってもいい。ベッドルームには、120センチ幅のベッドが2台ならび、リビングとの仕切り壁に面して、ライティングデスクやテレビなどが配置されている。ベッドルームの採光は、デスク脇のわずかな窓だけなので、やや閉塞感があるのは否めない。この客室には高速インターネット回線はないのだが、内線にインターネットアクセス用の番号を持ち、ダイヤルアップで低速ながら、無料で利用できるサービスを行っている。
バスルームはアウトベイシンを持つが、内部はオーソドックスなユニットバスだ。バスルーム内にもベイシンを持ち、花柄のタイルが南欧のイメージを運んでくれる。バスタブにはサーモスタット付きのカランを設け、水圧も十分だった。また、アメニティは非常に豊富に用意され、その数々を見ているだけでも楽しい。バスローブやナイトウエアが備わり、充実している印象だった。この客室には、南館の特徴のひとつでもあるバルコニーは設けられていない。
客室に案内してくれた係は、その後も館内で出会う度に、にこやかに接してくれ、「おくつろぎいただいておりますでしょうか?」などと声を掛けてきた。その親切心にほだされ、夕食には予定外にアランシャペルでご散財。彼女のサービスは、売り上げアップに直結した。笑顔は確かに福を呼ぶ。
|