エレクトーン演奏家は孤独な稼業。私の場合、同業者と共演という機会はほとんどありません。内海源太さん以来、13年ぶりにご一緒したのが、倉沢大樹さん。スガナミ楽器明石の計らいにより実現しました。
「せっかくなので、アンサンブルもやりたいです」と、言いだしたのは私。お互いのこともよく知らず、稽古日を確保できるかもわからないまま、ただ「できたらいいな」という軽い気持ちで口にしてしまいました。
主催者はとてもよろこんでくれました。全曲ソロなら、エレクトーンは1台で済みますが、たとえ1曲でもアンサンブルがあるとなれば、2台用意しなければなりません。それでも、アンサンブルがあれば、お客様はより盛り上がるに違いないと意見が一致したのです。
でも、倉沢さんは連日の演奏会で各地を飛び回る人気者。早い機会にメールを下さって、いろいろと案を練り続けましたが、顔を合わせて稽古するチャンスは持てそうもありませんでした。
当日の初顔合わせでアンサンブルというのは、あんがいよくある話ですので、それは心配しませんでしたが、問題は選曲をどうするかです。
倉沢さんは露出も多いので、演奏レパートリーやスタイルを参考にできる資料がたくさんあります。ならば、私が倉沢さんのスタイルの乗っかる方が、手っ取り早いと判断しました。
倉沢さんは、アンサンブルするのにいい曲をいくつも候補にあげてくれ、それぞれに丁寧な解説もしてくれました。どの曲も魅力的でしたが、私の中途半端なセンスでは、せっかくのテイストを台無しにしてしまうのではと、恐怖が先に立ってしまいます。
でも、あまり迷っていては、やる気がないように伝わりかねませんので、直感を頼りに2曲を選び、役割分担を相談して、あとは当日にということで決定しました。
そしていよいよ当日。13時に会場で待ち合わせ。私はずいぶんと早く到着し、ホワイエでのんびりと待っていました。そこに到着した倉沢さん。私の方が年寄りですので、気さくに話しかけます。初対面ですが、お互い音楽を愛する者同士、すでに鉄壁の共通点があるわけですから、すぐに打ち解けられました。
楽器セッティングが仕上がるのを待ってステージへ。先に倉沢さんのソロをリハーサルしてもらい、その間、私はホール客席のあらゆる場所で音を聞きます。
この日のスピーカーはKA75。エレクトーン用に作られた最高のスピーカーです。さすが、目の前の席に座っても痛くありません。今の時代にはややメロウな響きにも感じられますが、バランスもかなりいいです。
そしていよいよアンサンブル。ジョージア・オン・マイ・マインドを、私のオーケストラに乗って、倉沢さんが思い切りピアノソロを弾くというスタイルで。意気込んでイントロを弾くと、ビリビリバリバリ音が割れて、あえなくストップ。ありゃ、DIが合わないみたい。PAさんに調整してもらいましたが、私が弾く02Xは、結局本番も含めてずっと割れ模様でした。大きな音が出せないばかりか、終始音質を気にしなければならず、とても弾きにくかったです。
いよいよ本番。第1部は私のソロ演奏。クラシックメインのプログラムで、落ち着いた風格のある雰囲気を目指します。さすが優秀な生徒さんが多くいるスガナミ楽器。鑑賞中の集中力も並ではありません。
続く第2部は倉沢さん。JAZZをメインにしながらも、幅広い音楽で楽しませてくれました。もちろん、私も舞台袖で全曲をじっくり鑑賞。まるで本当にベーシストやサクソフォーン奏者がそこにいるかと錯覚するほどにリアルなのは、フレーズの息づかいが素晴らしいからこそ。ありえないスピードのペダル鍵盤さばきには、思わず目が釘付けに。いやいや、本当にエネルギッシュでした。
アンサンブルも倉沢さんの丁寧なリードで、気分よく弾かせてもらいました。アンコールではリカドボサノバを。私はフルートを担当して、久々にアドリブなるものにチャレンジ。思い切り楽しみました。
大いに盛り上がったコンサートですが、お互い次の予定が迫っていて、すぐにお別れ。エレクトーンの幅広い可能性を改めて知ることができ、とてもいい一日でした。