プラネタリウムコンサート「星と神話のシンフォニー」

今日のプラネタリウムコンサート、たぶん、弾いていた私が一番楽しんでいたのではないかと思います。
何から何までが新しい経験で、重要な発見もたくさんありました。

会場のプラネタリウム内では、午前8時からスタッフの皆さんが準備を進めてくれており、私が会場入りした午前10時には、すっかりリハーサルの準備が整っていました。

今回はどうしてもフルスケール鍵盤を使いたかったので、プロフェッショナルモデルを搬入。専用スピーカーも用意しましたが、とりあえず会場に備わっているPAで音を出してみることに。

とにもかくにも、私だけでなくスタッフの皆さんにとっても新しいこと尽くしのイベントですから、まずは全員が流れをつかめるように、ざっくりと通しリハーサルを行いました。

私が最も注意を注いだのが、苦心してプログラムしてもらった映像と、ジャストでシンクロするためのタイミング取り。リアルタイムで演奏するので、映像の変化をきちんと把握しておかなければ、サイズが合わなくなってしまいます。「この星雲がでたらこのフレーズに進んで」など、キッカケを一度の再生で把握するには集中力が必要でした。

そして、全体をいかにスムーズに進行するかです。
コンサートですから、進行が実験的に見えたりギクシャクしては興ざめですので、自分自身の演奏準備と映像の準備の間の取り方にも気を配りました。

できるだけ中断することなくランスルーを終え、問題点が見えたところで、スタッフと一緒に、公演をよりよくするためにギリギリまで工夫を重ねました。こうしてスタッフたちと一丸となってことを進めていると、「これぞコラボだよな」という気分になります。

しかし、私自身が抱えた問題は結構深刻でした。それは・・・

まず暗転状態での演奏。
本番中は投影の品質を保つために、できる限り楽器周辺の照明を落とします。
もちろんコンサートですから、まったく演奏者が見えないというのも不自然ですので、両者が互いの妨げにならないよう調整しました。
それでも、普段、十分な照明の元で演奏することに慣れていると、キャンドルライト程度の明るさでは、不都合がありました。

最も困ったのは、自分の手がいつもと違って見えること。目が追いつかないのか、まるで残像を見ているような感じで、実際に手がある位置と、見えている位置とにズレがあるように見えました。

そして、時折映像の確認のためにドームを見上げるのですが、ドームの映像は巨大ですし、楽器のある隅の方から見上げると、画像は歪んで見えます。
そうした歪んだ画像を見た後に鍵盤に視線を戻すと、鍵盤が歪んで見えてしまいます。
この時は「まるで大きく揺れる船の中で弾いているようだ」と感じました。

そして響き。
ドームは音が反射しないよう、吸音材で覆われています。
そのため、コンサートホールのような残響はなく、会議室やホテル宴会場よりもずっと音楽的な環境がよくありません。
何を問いかけても決して答えない壁なので、まるで発泡スチロールに向かって愛の告白をしているような気分です。
埋め込まれているスピーカーは、思っていたよりもよい音でした。ただ、エレクトーンのレンジをフルに再現するには、音量というよりもゆとりの面で、もう一歩という感じでした。

1回目の本番。
暗転の中、演奏をキッカケに真っ赤な照明が点灯し、闇の中から私が浮かび上がるという趣向でスタート。
1曲終えてお辞儀をしましたが、拍手がぱらぱら~っとしか聞こえません。
え?ブーイング?と思いきや、これもまた吸音材のいたずら。拍手の音さえ吸収してしまうので、まるでお客様が5人くらいしかいないように聞こえました。原因がわかっていても、ちょっと調子が狂います。

でも、1回目が終了し、お客様のアンケートに「演奏中の手の動きが美しかった。ずっと見入っていた」とのお言葉があったことをスタッフに聞かされ、投影だけでなく私の手を見てくれていたのだと知り、かなり嬉しくホッとしました。

1時間後に2回目がスタート。
1回目もいい感じでしたが、2回目は格段に進化していました。
スタッフの投影も手慣れてきた感じがしますし、私も不都合のすべてを克服していました。

そして、何より違っていたのは演奏に向かう気持ちです。
1回目は、いかに映像にシンクロするかに意識を使いすぎたため、やや演奏への思い入れが不十分になったことを反省。
そこで2回目は、あまり映像を気にしないことにしました。

もちろん、要所はおさえなければなりませんが、それ以外は演奏に集中することに。
私は私の世界で音楽を奏で、映像は映像で展開する。
それらをどう編み上げるかはお客様に委ねようと考えたのです。
そうすることで、お客様にコラボレーションの仕上げをして頂ける。
こうした余白を残すことも大切だと学ぶことができました。

それにしても、最新機材を駆使した投影は圧倒的な迫力と繊細さでした。
もちろん、エレクトーンのサウンドもそれに負けていなかったと思います。
「ダフニスとクロエ」によせた宇宙の神秘、「火星」の戦火、「ボレロ」とともに飛んだ宇宙の彼方から地球への旅路、古代の星空を見上げながらの「サムソンとデリラ」、はくちょう座と「白鳥」、そして森林とオーロラと流星の「フィンランディア」。
どれもがよりドラマチックで印象深いものになりました。

私が一番リラックスして楽しめたのは、白木さんの「今夜の星空解説」の際に、即興で音楽を付けさせてもらった時です。
白木さんのやわらかい語り口と星空が絶妙にマッチして、その印象そのままに音を付けていくのが、なんとも楽しかったです。

写真には下の方に私がちょっとだけ写っているのがわかりますか?

プラネタリウムとエレクトーン。これはかなり強力なコンビです。
また「星と神話のシンフォニーDeluxe」をお届けできる日にご期待下さい!