ストイックなリハーサル

神田将のソロコンサートリハーサルは、かなりストイックです。

弾きなれている曲ばかりのプログラムでも、何度も経験している会場であっても、時間が許す限り、全曲のランスルーをおこないます。

練習や指慣らしが目的ではありません。
会場の響きは、広さ、形状、材質によってまったく異なります。
同じ会場でも、温度や湿度、来場者数、その年齢や服装によっても、響きが変わってきますので、リハーサル時に自分が投げかけた音がどのように響くのかをしっかりと把握した上で、お客様が入った時のことを予測しておかなければなりません。

どんなに慣れた曲でも、わずかな響きの違いが影響して、演奏への集中力を大きく損なう場合もありますので、本番で音楽の世界に専念するには、リハーサルがとても大切なのです。

リハーサル時は、基本的に会場の出入りは遠慮してもらっており、一切の物音を立てないよう最大限の配慮をお願いしています。

この際、私の脳神経は自分の感覚を超えた最大周波数で高速演算しており、自分でも驚くほど周囲の状況に対して鋭敏になっているので、私が周囲の音を完全にかき消すほどの音量で演奏していても、遠く離れた位置でささやき合っている会話がくっきりと聴き取れるほどです。

そして、リハーサルをしながら、「今日はホルンが埋もれ気味だな」とか、「クラリネットのこの音から上の音域が赤過ぎるな」とか、「低音が延びないから、少し長めに保とう」とか、すべての曲の、微細な注意点を記憶していきます。

エレクトーンでは、現場の状況を受けて、レジストレーション(エレクトーンの音色設定)を調整することが多いようですが、私はよほど致命的な違和感がない限り、機能に頼らず、指先のタッチだけで微調整を完成させるようにしています。

要するに、あらゆる状況に対応できるコントロール性を身に付けておき、なおかつ、どうコントロールすべきかを判断できる耳を持つことで、その場に相応しい演奏が可能になるのです。

そんなわけで、リハーサル中の私は、いささか殺気だって見えるかもしれません。
でも、不機嫌なわけでも、殺意があるわけでもなく、その時にできうる最高のことを追求している姿です。

では、本番はどんな気分かというと、私は自分で演奏しながらも、まるで客席で皆さんと一緒に音楽を聞いているような気楽さでしょうか。

毎回、演奏中は本当に楽しくて仕方がありません。その喜びをお客様と分かち合えた時が最高の気分です。