今夜は、以前何度か共演したことのあるバイオリニスト、佐藤美代子さんのコンサートに行ってきました。
今回の企画はユニークなことづくし。
まず、会場はお蕎麦屋さんです。
入口で靴を脱ぎ、板の間に並んだテーブルを囲んで、座布団に腰をおろします。
やがて蕎麦や天ぷらなどが盛られた定食が運ばれ、それを食べながら、居合わせたお客様と歓談して開演を待ちます。
食事がひと段落着いたところで、演奏スタート。
佐藤さんは、店の一角に板付くと、やおらバイオリンを持ち、無伴奏でバッハを弾き始めました。
佐藤さんのバイオリンには、独特の哀愁と、重ねた人生相応の色香が漂い、このある意味ミスマッチな雰囲気を、「これもありだな」という気分にさせてしまう魅力を持っています。
蕎麦屋ですから、少しも響きは良くありません。
蕎麦屋ですから、湿気もかなりのものです。
バイオリンには最悪な環境でしょうに、そんなことどこ吹く風という感じに、佐藤さんらしい世界観を表現していて、頼もしく思いました。
これもヨーロッパで経験を積んできたからでしょうか。
海外では場所を問わず音楽を楽しむ習慣が出来上がっていますが、日本ではまず環境ありきという演奏家が少なくありません。でも佐藤さんは違います。
バイオリンからはバイオリンの音しか出ません。当たり前ですが、バイオリンの音色だけでも、あらゆることが表現できます。
エレクトーンは多彩な音を出せますが、ひとつの音色をとことん使い分け、あらゆる表現をする機会はほとんどありません。
変化をつける時には、音色そのものを変えるという発想に頼りがちです。
でも、やはり、基本はひとつの音色の多様性であり、あらゆる表情をもった単一音色が重なり合ってこそ、本当のひとりオーケストラになるのだと思いながらバイオリンの音を聞いていました。
サン=サーンスの序奏とカプリチオーゾでは、風格と大胆さを感じさせ、佐藤さんの魅力を改めて発見することができました。
舞台で共演している時とは違った視点で共演者を見ることも、たまには必要ですね。