高崎を後にしてから、新潟に来ています。
この日歩いたのは、パリのアレクサンドル橋ではなく、信濃川に架かる万代橋。車だけでなく歩いて渡る人もたいへん多く、なかなか活気のある橋です。
21日の夜は、かつてモーツァルトのレクイエムを共演させて頂いた合唱団のメンバーさんや、吹奏楽関係で大きな役割を担っている先生らとともに、夕食を楽しみました。
連れて行ってもらったのは、流作場五差路の面した「山雅亭」。県内の岩船漁港から直送される海の幸をはじめ、山海の美味をシンプルに調理した郷土料理が中心の店で、民芸調の店内や女将さんを中心としたサービスがとてもアットホームなので、気楽にくつろげる雰囲気でした。
運ばれた料理はどれも新鮮でおいしかったのですが、私が特に気に入ったのは村上牛の串焼きとカニクリームコロッケ。この日はあぶらものは控える決心でしたが、お肉の誘惑には勝てませんでしたし、実際、掟を破って食べてよかったと思える味でした。
おっと、今日はグルメレポートではなく、コンサートレビューでした。話題を本筋に戻します。
午前10時に学校にうかがい、まずは校長室で校長先生やご担当の先生、PTAの会長さんらと歓談。PTA役員の方々もおいしいお茶や名物の菓子を振舞ってくれ、皆さんからこの日に向けての熱意が伝わってきます。
それから会場となる体育館に向かい、早速リハーサルです。これまで300ほどの体育館で演奏して来ましたから、だいたいどのような響きになるのかは想像していましたが、1曲弾いてみて、この体育館の特殊な響きにどう対処しようかと考えを巡らせなければなりませんでした。
天井の形状や材質、舞台の広さや幕の位置関係などの影響を受け、音が十分に広がらないのに、妙なところから鋭く反射してくるという、かつてない音響環境に、万全な対処を施すのは難しい状況です。
でも、少しでもいい音で聞いてもらえるよう、この場でできる限りの工夫をしたいもの。スピーカーの向きや位置を調整してもらったり、窓の開閉などを試してもらったりして、なんとか客席にはまずまずの音を届けられるようになりました。
一方で、私自身に聞こえる音は犠牲になりました。弾きながら聞こえてくるのは重低音と、壁から反射して聞こえてくる遅れた音だけ。かなり弾きにくい環境ですが、私はこれまで様々な環境で演奏した経験があるので、自分に聞こえる音が仮にゼロであっても大丈夫。とにかく客席への音が優先です。
ひととおりのランスルーを終え、余った時間で「せんくら」用プログラムの稽古をして、いよいよお待ち兼ねのランチタイム。
今回はグルメな私に気を遣って、確かな味で名高い旬香茶寮「あをせ」の仕出し弁当を用意してくれました。この店はサイ・イエングアンさんもお気にいりだとか。
本番前はあまりたくさん食べないのが常ですが、弁当箱を開けると「これは食べなければ後悔する」と思わせる料理がぎっしりと詰まっていたので、自分でも驚くほど箸がすすみました。
これ以上食べると眠くなってまずいなと思っていると、新潟名物の洋なし「ル・レクチェ」のゼリーがふるまわれ、これもペロッといただきました。
これで本番は間違いなく汗だくです。すでにリハーサルで「ずぶ濡れ撮影」時と同様の濡れ方でしたから、ジャケットを着たまま弾く本番は、より深刻でしょう。冗談でなく、自分自身の熱中症にも注意が必要です。
やがて全校生徒600名以上とその他大勢でいっぱいになった体育館で、コンサートがスタートしました。
今日のプログラムはほぼクラシックオンリー。しかも中学生向きとしてはかなり上級プログラムです。チャイコフスキーに始まり、シベリウスに終わる重厚な内容なので、最初はみんな固まって聞いていました。
途中から少しリラックスできる仕掛けを取り入れて行くのですが、私が舞台から降りて、生徒たちの間を回るあたりから雰囲気が一変し、とても楽しくなります。
そして生徒たちにも舞台に上がってもらったり、楽器に触ってもらったりして、最後にもう一度気持ちを集中させて交響詩を聞いてもらうという流れです。
蒸し暑い環境で、トータル約2時間、休憩なし。弾いている私も大変ですが、生徒たちの忍耐力にも脱帽です。結局今日も私自身が一番楽しんでしまったのかもしれませんが、会場の皆さんに支えられてこそ実現したコンサートでした。