最後の発表会

8月15日。西国分寺駅前にある「いずみホール」で予定されている「Tokyo Symphonia 2010」は、私が子どもの頃から通っていた音楽教室が主催する、最後の発表会となります。

この発表会を機に、私を導いて下さった先生は引退をします。

教室の門をたたいてからというもの、私は一貫して同じ先生のお世話になって来ました。私の音楽的な可能性にいち早く気付き、より高度な音楽教育を受けられるようにと、何度も立派な先生方のところへと送り出してくれたのに、私はあっという間に出戻っては、いつも先生をガッカリさせていました。

立派な先生方は、私に正しいことをきちんと教えて下さいましたが、当時の私が正しい音楽以上に求めていたものは、なにものにも束縛されない自由な精神の探求でした。

それもいつかは限界に達し、結局正しいものを人よりも何歩も遅れて追い求めることになるだろうと、子どもながらに理解していましたが、たとえそうであっても、今やりたいことをやり抜くことしか考えられませんでした。

そうした奔放で無作為な音楽を、ユニークなものとして受け入れながら見守ってくれたのが、今回引退をする先生だったのです。

この指導法が誰しもに成果をもたらすとは限りませんが、少なくとも私には最善の方法だったと思います。若い時はぶっきらぼうな弾き方をしていましたが、まだ人生の酸いも甘いも知らないのですから、当然と言えば当然です。

様々な経験を重ねると同時に、音楽表現の手法もまた、ひとつひとつ丁寧に身につけて来ました。実感を伴いながら吸収したので、ごく自然に体に入って行ったのでしょう。これを無理に子どものころに叩き込まれていたら、どこか不自然さが残ったかもしれません。

いずれにしても、私は相当な遠回りをしましたが、その道のりで得たものは、いまやすべてが私の武器となっています。

私が先生から引き継いだ最大の教訓は、「結論を急がない」ということです。子どもに対して、大人顔負けの演奏を強いるのは酷というもの。コンクールを視野に入れていれば、洗練された仕上がりを目指すのは当然ですが、一度コンクールで弾いたからと言って、終わった途端にその曲をお蔵入りにするのは間違っています。

真剣に取り組んだ曲は生涯探究し続け、人生観の変化とともに同じ曲の表現がどのように変わっていくのかを確かめ、自分自身の成長や停滞を量ってほしいと思います。

今取り組んでいることの答えが出るのは、10年先か、30年先か、あるいは生きている間には見出せないかもしれません。音楽性の熟成は、樹木が年輪を刻むようなゆっくりとした時間軸で進むものです。決して結論を急がず、長期的な視点で育んでいきましょう。

さて、今回の発表会には、先生の門下生にまじって、私のチームメンバーも若干名出演します。TANEちゃんは指の怪我が完治せずに、大事を取って欠場。極めて残念ですが、無理をして治るのが遅くなってはいけませんので、今回は控えることにしました。その代わり、受付嬢をします。

それから、先生の門下生と私とのアンサンブルが2曲あります。また、35分間の私のソロステージもあります。

「聞きに行きたいけれど、本当に誰でも入れるの?」という問い合わせもたくさんいただきました。発表会ですので、入場は無料ですし、どなたでもお気軽にお入りいただけるよう、TANEちゃんが笑顔でお迎えします。当日思い立ったらでも結構ですので、どうぞお越しください。

Tokyo Symphonia 2010

日時:2010年8月15日(日) 16時開場/16時30分開演(20時終演予定)

会場:いずみホール(JR中央線 西国分寺駅 南口駅前)

神田将オンステージは18時30分頃にスタート予定です。