昨晩は疲れているにもかかわらず、結局、一睡もできず終い。ちょっとだけのつもりでリサイタル準備を始めたところ、気がつけば明るくなっていました。
窓を開け、澄んだ空気を胸いっぱいに吸いこんだら、もう眠る気分ではなくなりました。宿は町の中心近くだというのに、ノイズはまったくといっていいほど聞こえません。これがほんとうの朝なのかもしれませんね。
朝食前に日本航空に電話をかけて、フライトに関する手続きをおこなったのですが、オペレーターの仕事ぶりが気に入らず、朝っぱらから不愉快になってしまいました。口調は丁寧なのですが、客の要望に対して消極的な姿勢を貫いていることに腹が立ったのです。今こそ、死に物狂いで客の信頼を取り戻さなければならないというのに。
その不機嫌を引きずったまま宿を出発することになりましたが、そんな気分はたちまち道の脇を流れる沢に流れていってしまいました。
どこまでも果てしなく続くかのような広葉樹の森は、朝日を浴びながら絶妙なコントラストで輝いており、沢に立ちこめる蒸気は巧みに計算された舞台演出かと思うほどの精妙な美しさです。車の窓を開けると、蜜の甘い香気が漂い、これが徒歩ならば、思わず森に迷い入ってしまうに違いありません。
今朝の目的地は、岩泉町内にある小中併設学校。ご町内なら車ですぐだろうと思っていたら、とんでもない。信号こそ数えるほどしか通過しませんが、くねくねと続く山道を走り続け、約1時間掛けて到着したのは、有芸小中学校です。
学校では先生方が出迎えてくれ、皆さんにもご協力いただきながら、早速コンサートの準備を開始。今回の会場は体育館ではなく、コミュニティ広場のようなところなので、そこに面した教室からは授業をする先生の声が聞こえて来ます。
ということは、通常通りのリハーサルをしては、授業の妨げとなりますし、せっかく子どもたちにインパクトのある音楽体験を届けたいと思っているのに、あらかじめ聞いてしまっては、それが薄れてしまいます。
そこで、セッティングを済ませ、音が出るかのチェックをした後は、最少音量でウォーミングアップだけをしました。
続いて教務主任の先生に校内を案内してもらっていると、理科室ではスケルトンくんが歓迎してくれました。
予定よりも15分ほど早く始まったコンサートのゲストは小中学生合わせて14人。そこに保育園児が5人。先生方や関係者を加えても、30人もいないという、アットホームなコンサートです。
マイクは使用せず、教室での授業のような感じで、直接子どもたちに語りかけるようなスタイルをとりました。
子どもたち相手だからといって、私は一切手を抜いたりしません。きちんとステージ衣装を身につけますし、演奏曲も基本的には一般のコンサートとほぼ同様です。そして、演奏にのぞむ気持ちもまた、大切なコンサートとなんらかわりません。
でも、環境は通常のコンサートと大きく異なります。舞台照明なし。窓が開いて空気が動いている。時折、車の音などの雑音が耳に入る。などなど、音楽への集中力を断ち切る邪魔者が後を絶ちません。
そして、私が必ず実施しているランスルーのリハーサルが出来ないということも、響きと一体となった演奏を困難にしています。もちろん、その環境下でもベストは尽くしますが、整った環境で演奏するよりも、遥かに心身ともに消耗が激しいというのが現実です。
そういったことを忘れさせてくれるのが、私よりも熱心に楽しんでいる子どもたち。会った瞬間に友だちです。
暑さも半端ではありませんが、演奏中は実感する間もなく、終演してジャケットを脱いで、初めて暑さを知ります。
午前中の演奏を終え、またステージアを分解して車に積み、午後の会場へと移動です。これまた同じ町内だというのに、山をいくつも越えて1時間近く掛かりました。
目的地の手前でランチタイム。
こんな沢のほとりに、ログハウス風の小さな店がありました。
店の名は「ぶるっく」。農家のおばちゃんがひとりでやっています。店先ではチェーンソー彫刻のくまがお出迎え。
階段を上がったテラスに1卓、店内に大テーブルが1卓、そして花々に囲まれたガーデンにもテーブルがあるようです。
今日のおススメはフレッシュトマトの冷たいピリ辛パスタ。迷わずそれをお願いしました。サイドディッシュには自家製野菜のサラダ、自家製パンと自家製ジャム。素朴ですが、まごころの味です。パスタは見た目にも鮮やか。しっかりとしたアルデンテでした。更にコーヒーが付いて800円とお得。
そしてフレッシュいちごジュース。採れたていちごをたっぷり使ったミルクシェークは、甘酸っぱくて懐かしい味わいです。なんと300円!
商売というより、この地を訪れる人に休息とくつろぎをという気持ちなのでしょうね。
このお店は、「農家の嫁の事件簿」というブログでも超有名だそうです。
お腹がいっぱいになったところで、午後の会場となる釜津田小学校へ。こちらも午前同様に少人数での演奏会でしたが、有芸とはまた違った雰囲気の子どもたちでした。司会進行も小学生たちがとりしきり、しっかりと務めていたのが印象的でした。
聴くときは聴く、笑うときは笑う。今はこうしてほしいと態度でメッセージを送れば、きちんと応えてくれる子供たち。
人数が少ない学校では、エレクトーンを取り囲んで聞いてもらうことも。
名残惜しく学校を後にし、車は峠を越えて走り続けます。途中、未舗装の区間もありました。この地を走るのは私も初めてですが、きっとステージアにとっても初めての経験ではないでしょうか。
早坂高原では、美味しそうな牛たちが、のんびりと草を食んでいます。
そしてまた光溢れる岩洞湖を通り、盛岡市内へと戻って来ました。盛岡は目が回るような大都会ですね。
夕食は駅前の「ぴょんぴょん舎」で名物の盛岡冷麺を。
もちろんデザート付き!
ハーフサイズでも満足でした。明日は外山と岩手町に行きます。