プレジール

ファミリーコンサート「プレジール」が終わりました。14人が21作品を演奏する3時間のステージでしたが、年齢や選曲に幅があり、それぞれの個性が光るコンサートになったと思います。会場まで足を運んでくださったお客様ばかりでなく、興味を寄せてくださったすべての皆さまに感謝いたします。

当日は午後5時の開演でしたが、午前9時に会場へ集合して準備とリハーサルを始めました。人前で演奏するのが久しぶりという面々も多く、午前中は調子が上がらない様子だったのですが、時間が進むにつれ本調子に。出演者たちは、リハーサルも含めてコンサート全体を満喫している感じで、緊張する〜とか言いながらも、生き生きと楽しんでいるのが伝わってきました。

あっという間に7時間半が過ぎ、ドアオープン。そして、定刻通りに開演。第1部にはアップテンポで華やかな曲を中心に、第2部には主にクラシック作品を並べながら、それぞれの選曲が引き立て合うような流れにしました。

3時間もの間、お客様には惜しみない拍手とともに見守っていただきました。それはすべての出演者にとって、大きな励みになったことと思います。大きなトラブルもなく、出演者には最高の思い出に。終演後、みんなの表情はスッキリと輝いていました。

その一方で、私はこの演奏会に携わりながら、また多くのことを学びました。このささやかなステージには、実は演奏会に必要な要素が凝縮されており、私はそのほぼすべてを実践しました。企画、運営、編曲、エレクトーンデータ作成、チラシやプログラムの作成、出演者の演奏管理、そして当日の監督、司会、演奏、ソロ演奏、伴奏などなど。

事前のことは時間をやりくりしてやればいいのですが、当日の時間は限られています。早朝5時までに自分の稽古を済ませ、集合時間までに会場入り、その後は通し稽古終了まで常にホール内にいますので、水一杯飲む時間もありません。みんなに用意された折詰の寿司も、私の分だけが手付かずで楽屋に残りました。

和やかな楽屋とは対照的に、ステージでは、他の出演者のコンディションを見ながらモチベーションを鼓舞したり、音響や照明にも対応しつつ司会のトーク内容を考えたり整理したりと、常に精神的な負荷が超過した状態が続きます。つまり、自分の出番が来て楽器に向かう瞬間まで、演奏へのアプローチすらできません。ふだん、すべてがよい演奏のために整えられた環境で弾かせてもらっていることの価値が身にしみます。

開場して、急いで身支度を整えながら、差し入れのシナモンロールを口に放り込み、アイスコーヒーを一気飲み。舞台裏で最終確認を済ませて開演。司会というのも結構たいへんで、作品に関するバックグラウンドや演奏者のプロフィールを記憶した上で、時間管理をしながら話します。さらに、そのトークは演奏者をリラックスさせるものでなければいけません。

第1部の終わりとともに、10分の休憩でタキシードに着替え。水を飲みたいと思っても、すでにすべての飲みものが消費され、楽屋には空のペットボトルしかありません。今日は砂漠でコンサートだ。それにしちゃ涼しいな。そんなことを考えながら、第2部開演。私のラヴェルでスタートです。照明が決まり舞台に出ると、あらら、客席とホワイエとの扉がまだ開いたまま。いつもより時間を掛けて準備している「ふり」をして客席が落ち着くのを待ち、それから演奏。ずっと立ちっぱなしだったので、やっと腰を据えて座れたと思いつつ弾いていました。

ソロに続いてホルンのコンチェルト、ソプラノアリアの伴奏を弾き、やっぱり演奏している時が一番リラックスできるなと思いながら、気持ちよく音楽を楽しみました。第2部後半の演奏も見届け、終演。長い一日でした。

終演後はお座敷が掛かり、40年ぶりに再会する同級生たちのもとへ。2時間ほど歓談して、すでに快速運転が終了した中央線に乗って、ひとり帰路につきました。花火大会でもあったのか、浴衣のカップルが夏の夜の余韻を通わせている車内で、私はスーツケースとともに片隅に立って、一日を振り返ります。

負荷の高い仕事には慣れていますが、その負荷を分かり合える相手がいないことには、なかなか慣れることができません。でも、こうした経験が、私をどんどん逞しく変えていきます。ふてぶてしいほどタフなメンタルは、実践的な経験でしか養えないものです。

これ同様にストレスマックスな演奏会なのが、エレクトーンシティ渋谷で10年以上継続しているSongs from My Heartシリーズです。こちらの方が、出演者が全員プロで、ベテランプロデューサーが付いている分、楽な環境かもしれません。そんなSongs from My Heartも、11月19日に最終回を迎えます。こちらの方にも、ぜひ皆さまご来場ください。お客様に聞いていただくこと。それが私にとってのすべてです。

子供たちのパーカッションがホールを明るく彩る
目が不自由ながら、ほのぼのとした演奏と歌で楽しませてくれた琴音さん
自分の演奏だけでなく舞台裏のサポートにも協力してくれた男子陣
松信亘のリハーサル
ラヴェルをリハーサル中
チャイコフスキーをリハーサル中

演奏曲目

ルパン三世のテーマ/阿久津悦 横堀郁子 横堀果帆

グリーグ – 抒情小曲集 第6集 「過ぎ去った日々」「ゲーゼ」「郷愁」Op.57-1,2,6/阿久津慎太郎

イエスタデイ
家族になろうよ/吉澤琴音

海溝
ニューヨーク・パッション・ストリート/横堀郁子

美女と野獣
風の谷のナウシカ「鳥の人」/松信亘

夢をかなえてドラえもん/岩井みお

天空の城ラピュタ「君をのせて」/岩井そら

チャイコフスキー – 幻想序曲「ロミオとジュリエット」/菊池玲那

海のファンタジー/岩井みお 岩井そら 阿久津慎太郎 阿久津悦 横堀果帆 横堀郁子

ラヴェル – ダフニスとクロエ 第2組曲/神田将

モーツァルト – ホルン協奏曲 第1番 ニ長調/古原尚貴

チェスティ – 歌劇「オロンテーア」私の偶像である人の回りに
チレア – 歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」私はおとなしい下僕/呉順子

シベリウス – ロマンス Op.24-9 変二長調/阿久津悦

アナと雪の女王「Let it Go」
プッチーニ – 歌劇「トゥーランドット」誰も寝てはならぬ/久田亜由美

チャイコフスキー – 交響曲第6番「悲愴」第4楽章/星野隆行

ガーシュウィン – ラプソディ・イン・ブルー/阿久津悦 横堀郁子 横堀果帆