賑やかなサイレンスカー

和歌山のホテルで目覚め、まずは和歌山城周辺までランニングをして、疲労を感じる体に喝を入れました。その効果で気分もスッキリ。今日も元気に過ごせそうです。たっぷりの朝食をとってホテルをチェックアウトし、スーパーくろしお号に乗って新大阪経由で新幹線に乗り換えました。

目的地は香川県の坂出。新幹線は岡山までの乗車です。ひかりレールスター車両だったので、4号車サイレンスカーを指定しました。

サイレンスカーは、静かな車内環境を求める客のために、途中の車内放送もなく、車内販売のワゴンが通る時も無言であるなど、徹底的に車内の静けさを重視した車両です。座席の注意書きにも、静かな環境を保つ配慮が求められています。

それなのに、車内の騒々しいこと。携帯電話で通話したり、隣席の人と大声で話をしたり、子どもが泣き叫んだり、まったくサイレンスカーの意味をなしていません。これは、禁煙車で喫煙をするのと等しい行為ですが、まだまだ静寂には無頓着な人が多いようです。

岡山からはマリンライナーに乗り換えて一路四国へ。すでに見慣れた車窓ですが、巨大な橋と穏やかな海にはいつも心動かされます。

坂出ではたったひとりの受講生に長時間のスーパーレッスンをしました。コンクール直前なので、いつも以上に熱がこもります。5時間ほど弾き続けたでしょうか。私も向かい合わせに座って、もう一台のステージアで同じ曲を並奏します。

細部にまで妥協のない高度な表現を求めているので、それを実現するのは奇跡を追い求めるような感覚です。でも、私は諦めませんし、受講生のセンスと可能性を信頼し、要求をぶつけ続けます。

問題点をしらみつぶしに解決するのではなく、限界を超えたチャンレンジから奇跡的に生じたきらめきを、まさに砂金を探るような細やかさで集め、本人のよい面が結晶化するような演奏を目指して、一緒にトライし続けています。

どんなに時間があっても足りませんし、満足に到達することなど、生涯掛かってもないのかもしれません。でも、こうしてわずかな成果でも着実に重ねていくことが、将来の糧になると信じています。

受講生本人は、レッスンが終わるなり、ふらつきながら床に倒れ込むほどの疲労だった様子。でも、その表情は自分の足で高い山の頂に到達したような清々しさでした。こうした時間は、私にとっても非常に幸福なひとときです。

厳しい稽古を終えたら、ともに食事をし、おおいに笑ったり語り合ったり。実際の稽古と同様に、さりげない日常の時間にも、豊かな経験をたくさんちりばめてやることが大切です。

四国を後にし、今夜は岡山ステイ。明日からは自分の音楽に専念する時間を持たなければ。気持ちをしっかりスイッチして、密度の濃い音楽時間を過ごそうと思います。