5日のリサイタルを終えて3日目。
終演直後より、関係者、弟子たち、ご来場のお客様など、リサイタルをご覧頂いた様々な立場の視点から感想を聞かせてもらい、その成果と反省点を噛みしめているところです。
当日のブログにも書きましたが、昨年までのリサイタルでは、私はまるで抜け殻のように喪失感に苛まれたものですが、今回はそれがまったくありません。
まるでメインディッシュを8皿並べたような「お腹いっぱい」のプログラムは、よほどの音楽好きでなければ、勘弁してくれという感じだったことでしょう。お客様を楽しませるためのプログラムなら、こんな風にはしません。
でも、今回ばかりは、私自身の限界に挑戦しなければならないと強く感じていました。
優秀な生徒たちに、私ももがき苦しみながら成長しているのだという背中を見せたかったこと。エンターテインメントを超えたところにある音楽という花の香りをかいでみたかったこと。そして、私自身を逃げ場のない状況に追い込んでみたかったこと。
そうした負荷に屈してしまうのではないかという不安は常につきまといましたが、そんなあと先のことなど考えもせずに、若者のようにまっしぐらに突き進みました。
この爽快感は、不敗の強豪といい勝負ができた時の気分そのものです。勝敗でいえば、私は負けたのかもしれませんが、この勝負から学んだのは他では得難いものばかりでした。
105分のステージで、私は一瞬たりとも気を抜くことができませんでした。この時、狭いステージは剣闘士にとってのアンフィテアトルムのようなもの。まさに逃げ場がなく、ちょっとした気の緩みが命取りになる状況です。
その中で、私もお客様も終始集中力を保ち、会場内の空気が乱れることもなく、全員で音楽の世界に浸れたことは、まるで夢の世界であり、このホールだけがひとつの独立した宇宙のようでした。
私にこのようなリサイタルを決意させたのは、池谷さんが撮影してくれた私のポートレートでした。今回のリサイタルフライヤーや、サイトのトップページに使っている「強面」のあれです。
この写真を発表した際には、ファンや関係者の間でかなり物議をかもしました。「こんなの、将さんじゃない」と、ずいぶん言われたものです。確かにそれまでのイメージとは大きく違っていましたから。
でも、私が最初にこの写真を見た時、初めて私が追い求めていたものを客観的に「この目で見た」感じがしたのです。私が表現したいものがこの中にある。それを池谷さんは写真にとらえてくれた。背筋がぞくぞくしました。これこそが私に素顔だったのです。