坂東玉三郎さんの牡丹亭

今日は赤坂ACTシアターで開催中の舞台「牡丹亭」を鑑賞してきました。

この牡丹亭も2009年の中国上海国際芸術祭に私のコンサートと同じく出展されていたのですが、その時はスケジュールが合わずに上海での舞台を見ることができませんでした。そこで今回の東京公演に招待してもらえることになり、喜び勇んで会場へ向かうと、真正面前列のベストシートが用意されていました。

催しのタイトルは「坂東玉三郎特別公演『牡丹亭』~中国・昆劇合同公演」とあり、主演と芸術監督を玉三郎さんが務めています。これまでの「牡丹亭」公演よりも一層玉三郎さんの思いとカラーを映し出すスタイルに進化した舞台であることを伺わせます。

長い歴史を誇る中国の伝統芸術において、日本の歌舞伎役者が主演として迎えられるのはとても珍しいことだと思います。その影には天才玉三郎さんにおいてもきっと多くの努力が必要だったことでしょう。

舞台はすべて中国語。しかも、昆劇は高音域での息の長い節回しが特長である台詞と歌唱が続き、まるでオペラのプリマドンナのような重責です。そして、視線の送りひとつ、袖の振りひとつにも、極めて高度な洗練が光っており、溜息が出るような美しさでした。

そこに佇むだけで全観衆を釘づけにする特別なオーラを放ち、見事なシルクの衣装をまとったその姿は、もはやこの世のものとは思えないほどです。

これほど完成度の高い舞台だけに、音楽家の私から見ると残念なこともいくつかありました。

この舞台において、音楽の位置づけがどの辺りなのか、それがよくわかりませんでした。たとえばオペラでは音楽が至上のポジションを占めますが、演劇であれば音楽は気の利いた添えもの程度でしょう。

では、昆劇では音楽のプライオリティをどう考えているのか。舞台を最後まで見た感じでは、あまり重要視されているようには思えませんでした。これほど多くの歌唱を伴い、大切な言葉は旋律とともに語られるというのにです。

単に、玉三郎さんの声を均一に聞かせるだけの音響。歌になったら急にボリュームが上がり、中国楽器による生演奏とのバランスは台無し。もう少し音楽の在り方に対して工夫を凝らすこともできたのではないかと思います。

まあ、そんなことはどうでもいいくらいに素晴らしいステージでしたが、もし音響的な面でオペラやオーケストラに精通する人が携わっていたら、この夢のような世界が、もっと際立ったに違いありません。

ところで、私は今回、昆劇というものを初めて鑑賞したのですが、京劇とはまたひと味もふた味も違い、しっとりとした場面が多く、繊細な表現が印象的でした。それと同時に、また本格的な京劇も久しぶりに鑑賞してみたくなりました。