神田将コンサート in 上海 復旦大学

中国上海国際芸術祭が今年用意してくれたソロコンサートは2回。中国の未来を託された優秀な学生に、芸術のすばらしさを伝え、かつ一緒に舞台を作る機会を届けるのが今回のコンセプトです。題してキャンパスツアー。そのうち1回目がこの日に開催されました。

会場は名門「復旦大学」のキャンパス内にある劇場。中国の大学はとにかくスケールが大きく、何から何まで圧倒的です。まるでベルサイユ宮殿のようなゲートやアプローチがあり、敷地内は豊かな緑が配され、公園のようです。

ゲートから車で走ること数分。なにやら立派な城があると思ったら、こちらが劇場だそうです。

正面玄関側はクラシカルな趣きですが、反対側はとても芸術的な外観をしています。

池には黒鳥。

外観も近寄るとホテルのような繊細な造りです。

ロビーにはアートの数々。

そして劇場は千名以上を収容する大きさで、舞台もバレエやオペラが可能な広さを持っています。舞台から客席を見るとこんな感じです。

待合室もまた立派。案内された家族は偉くなったような気分だと言ってくつろいでいました。

予定通りに会場入り。見知らぬ物体にみんな興味津々。お掃除のおばちゃんも寄ってきました。

そして、早速音響のチェックを始めたのですが、ここから本番までは非常に厳しいものがありました。まったく思い通りの音に近づかないのです。

音響さんは昨年の芸術祭でもお世話になった人が今回も付いてくれているので、私がどうしたいかは把握しています。それに近づけるためにあれこれと試してくれるのですが、どうにも機材のコントロールがうまくいきません。

機材は立派なものが入っていますが、メンテナンスはしていないも同然。しかも、故障中アイテムが多過ぎるのと、設計的に不思議な状態になっており、どうにもお手上げ状態でした。

なぜ最初から音響設備一式を持ち込みで手配しなかったのかと、今更悔やんでも仕方がありませんが、私を含めスタッフ全員が現地の情報をうのみにしたのが間違いでした。

いずれにしても、本番までに出来ることのすべてをしなければなりません。これ以上よい音は出せないということですので、演奏でどこまでカバーできるか、そして選曲を調整することで、この環境でもそれなりに響かせられるものに絞り込む必要もあります。

モニターの音もひどいもの。でも、ないよりはマシと諦めるしかありません。何とかこの音環境に慣れようと、必死で神経を集中して細やかなコントロールを試みます。

同時に、舞台袖では司会進行の打ち合わせが着々と進んでいきます。真剣な表情ですね。

私は楽屋で身支度。

現地時間の18時半にいよいよ本番がスタートしました。

司会は復旦大学の学生。軽装ですが、堂々とした口調で立派に務めてくれました。

モダンにアレンジしたクラシック、伝統的なスタイルのクラシック、映画やミュージカルの曲などを織り交ぜ、休憩なしの100分のコンサート。先日のリサイタルさながらの熱を込めて演奏しました。

とにかく疲労感が著しく、まるで10時間以上も弾き続けているような感覚。それは音環境のためです。自分の出す音に納得がいかない。細やかな表現をしようにも、音がそれに応えてくれない。迫力も透明感もない・・・

そんな悲しい音を出し続けているうちに、何度もモチベーションが下がりそうになりました。それを必死で踏み堪え続け、音楽的なクオリティをなんとか死守したという感じです。

いかに音響が大切であるか、そして日本国内での公演で、いつもどれほどに恵まれているかを痛感しながらの演奏でした。演奏そのものはなかなかいい出来だっただけに、音の悪さが悔やまれます。

そんな気分をほぐしてくれたのが、学生とのトークタイム。質問を受けたり、逆にこちらから質問したり、楽しい時間でした。

最後の曲が終わってから、復旦大学の学生から花束と大学のプレートを贈られました。

そして楽屋に戻ると、たちまちサインを求める学生たちに囲まれ、ちょっぴりハリウッドスターの気分。コトバは十分に通じなくても、音楽でわかりあえる。一緒に肩を組み合って写真を撮ったり、とても楽しくて心温まる国際交流でした。

家族の喜んでくれ、明日のコンサートも楽しみです。