約2週間ぶりに東北へ帰って来ました。先月には岩手県と秋田県を廻りながら、人々の温かい人情にと美しい風景に触れる演奏旅行。そして、今月は「せんくら」で怒涛のプログラムに苦心しながらも、素晴らしい体験を重ねることができました。
コンサートシーズンまっただ中の秋、かつて経験したことのない濃密な時間を過ごしているせいか、まだつい先日のことが遠い過去の出来事のように感じられ、東北にも久しぶりに訪れたような不思議な気分です。
姜建華二胡コンサート東北ツアー、初日は山形県米沢でのコンサートです。
山形新幹線に乗って米沢に到着。共演者たちは「米沢牛、米沢牛」と騒ぎたてますが、残念ながらステーキハウスで舌鼓を打つ時間はありません。すぐさま会場へ直行し、先に準備を進めてくれているスタッフたちと合流しました。
衣装などの荷物を解くと、皆、自然とステージに集合。リハーサル開始時間までには1時間ほどありましたが、すでに舞台の準備も整っていたので、音響チェックがてらランスルーを始めることになりました。
このメンバーによる姜建華二胡コンサートはかなり久しぶりなので、自分の勘が鈍っていないかを全員が心配しているのですが、それを口に出す人はいません。
姜建華さんの合図で最初の曲がスタート。ほんの数秒で、全員の気持ちに安堵が広がりました。2年ぶりのアンサンブルにもかかわらず、誰の勘も鈍っておらず、ブランクを感じさせない出来栄えだったので、これで安心して本番を迎えられます。
プログラムは、終始全員で演奏しているわけではなく、時に二胡ソロあり、二胡と揚琴あり、そしてエレクトーンソロありと、バラエティに富んでいます。
自分の出番がない曲では、客席で演奏を聞いて、バランスや音質など、気付いたことを互いにアドバイスし合いながらリハーサルを進めました。
こちらは揚琴の郭敏さん。弦が多く、それぞれに調弦が必要なため、セッティング時から舞台に釘付けです。ボタンひとつであらゆる調にチューニング出来てしまうエレクトーンは、果たして便利なのか、勘を鈍らせるだけなのか、微妙なところだと思いながら、郭敏さんのチューニングを見守りました。
一通りの稽古を終えたら、スタッフが用意してくれたカットフルーツを囲んでリラックス。柿がとても美味しかったです。そういえば、周辺の景色もまだ紅葉には早いながら、少しずつ色づき始めているようでした。いよいよ秋が深まっていくことでしょう。仕出し弁当もおいしくいただきました。
定刻にスタートした初日本番。お客様もリラックスムードで、会場全体が温かい雰囲気に盛り上がりました。近頃の私といったら、シリアスなソロコンサートがメインになっているので、こうした和やかなステージは久しぶりです。
そのせいか、私のトークも少々軽い感じに。2010年の池谷フォトとは程遠いイメージだったことでしょう。
実は私、今回のツアーに関しては、事前の稽古をして来ませんでした。2年ぶりに楽譜を開いたのが、今日のランスルーという状況です。これまで50回以上も経験しているプログラムですので、もうすっかり体に染みついているはずだと信じていたのですが、それは過信ではありませんでした。
実際は全曲暗譜していましたので、終始姜建華さんや他のメンバーに意識を向け、自分の演奏よりもアンサンブル全体のまとまりを整えることに神経を配りました。
アンサンブルのまとまりは実に上出来なのですが、困ったことに私自身のエレクトーンから聞こえる音色に納得がいきません。これは昨日も話題にしたレジストレーションの問題です。
2年前のセンスと、今のとではまったく違ってきたのです。以前はこれで満足して弾いていたのですが、今、同じレジストレーションで弾くと、なんとも下品できつく感じます。演奏しながら微調整をし、よりまろやかでシンプルな設定に変更しつつ、それでいてより細やかな音楽表現を心がけました。
こんなことなら事前の稽古をしてくればよかったのかもしれませんが、やはり現場でアンサンブル全体の響きの中で実感しなければ、適切な調整はできなかったと思います。また、本番中に調整を試みることができるのも、私に十分な余裕があればこそ。
姜建華さんとのスリリングで情感あふれるアンサンブルを楽しみながらも、本番中でさえ進化を続けるコンサート。今日も大いに盛り上がって幕を下ろしました。終演後は荷物をまとめて、再び米沢駅へ。最終の新幹線で新庄駅まで移動しました。
新庄はトランジットのために降り立った街。明日への体力をここでリカバーしなければなりません。さて、周辺からの誘惑も皆無ですので、早く床に着くとします。