Andante

今朝は目覚めるのが恐ろしく、そのせいか、不可解な夢を見ました。朝になって直面するのは、快方に向かう兆しか、悪化の現実か。ベッドから起き上がるのには苦労しましたが、幸い痛みは軽減しているので、予定通りの行動ができそうです。

もちろん、日課の運動はお休みしましたし、その他にもなるべく安静にしていられるよう心がけ、ぎりぎりまで室内で楽譜を書いて過ごしました。

予定のフライトに間に合うよう羽田空港へ向かい、小さな小さな飛行機に乗って岡山へ。

国際線ターミナルのオープンが話題の羽田空港ですが、日本航空国内線が発着する第1ターミナルもリニューアルが進み、快適に使えるようになってきました。

今日の便が使った離陸の滑走路は、うわさの橋げた式新滑走路。飛行機が列をなして海上の橋を渡るさまは、なんとなくユーモラスに感じました。

離陸後しばらくして窓から下を眺めると、初めて目にする光景が広がっていました。それは真上から見る富士山。わずかに冠雪しており、傾いた日を浴びて黄金に光る山肌は、神々しいほどの美しさでした。

火口内の様子もくっきりと見えました。富士山の雄姿は都心からでも眺められますが、こうして真上から火口内までを見るのは生まれて初めてでした。

飛行機に乗るにあたり心配だったのは、離着陸の衝撃です。空港まで乗った車のわずかな振動でも結構きつかったので、ドスンとランディングしたら悲鳴をあげるかもしれません。でも、今日の機長はとてもキレイな離着陸をしてくれました。

とりあえず、ゆっくりならば歩くことができますし、痛みは昨日よりもずっと引きました。ただ、まだ階段を昇降できませんので、平らなところオンリーです。

そして、普段から競歩さながらの急ぎ足である私にしたら、徐行も徐行。文字通り「アンダンテ」なスピードで歩いています。

「アンダンテ」とは、イタリア語の音楽標語ひとつで、「ゆるやかに」とか「歩くような速さで」といった意味があります。

大都市圏では世界中どこでも「歩くような速さ」の概念が本来の意味合いよりもずっと「高速」になっている現代、いきなり若い奏者に「アンダンテ」と言っても、イメージよりも速いことがほとんどです。

かくいう私も、もし「普段歩くような速さ」で演奏した場合、「アレグロ(速く)」どころか、「ヴィヴァーチェ(活発に速く)」ぐらいになりそうです。

ああ、人生も「アンダンテ」くらいのテンポでいってみたいものです。

ちょうど1ヶ月前の今頃、私はヤマハホールでのリサイタルの最中でした。現在20時11分。ちょうど「幕末」を演奏中だったはずです。なんだか遠い過去のようにさえ思いますが、この1ヶ月でも、私の道はずいぶんと先に進んだように感じています。さあ、まだ見ぬ未来へ。希望に胸が膨らみます。