今日は、私にとって今年国内最後のコンサートでした。近年ではクリスマス恒例となったこのシリーズ。プログラムがリッチなラインナップだけに、どこまでも演奏家泣かせのコンサートですが、お客様の温かいパワーに後押しされ、とても気持ちのよいステージとなりました。
全体のリハーサルは正午から。それに先駆けて、フルートのふたりと私はホール裏のスタジオで稽古をしました。フルートの藤原さん、玉村さんとは、先日それぞれにリハーサルをしましたが、一緒に合わせるのは今日が初めてです。
それに加え、前回の稽古で課題になったことを、今日改めて打ち合わせする必要もありましたが、いずれもスムーズに解決できました。
予定通り正午に始まったランスルーは、プログラムの最後から逆順に進めていきます。今回のプログラムはアンコールに該当する曲も含めて全20曲。そのうち13曲が第2部に集中しており、しかもオペラアリアなど、神経をつかう曲目が続きます。
出入りのタイミングなど、細かい段取りも決めながら進めるのですが、リハーサルの段階できちんと打ち合わせをしたからと言って、本番がその通りに滞りなく行くわけではありません。
たとえ何が起ころうとも、何事もなかったかのように取り仕切るのが私の役目。経験を重ねるうちに、どんなハプニングにも驚くことはなくなりました。
第2部のリハーサルが終わった時点で、すでに結構な疲労感です。そもそも数ヶ月分の「充実と同じ重さの疲労」が蓄積しているわけですから、シーズン初頭のような元気ハツラツ状態にはないのはわかっていますが、こうも早く息切れするというのは計算外です。
続いて第1部のランスルー。やや集中力が途切れそうになりながらも、なんとか最後まで終わらせることができました。全体を通じ、私のソロはスキップしたので、本番よりは少ないにもかかわらず、もう限界という感じでした。
でも、これは体が本番で十分に燃焼できるだけのエネルギーを貯蓄した上でのこと。ここでヘトヘトだからと言っても、それはリハーサル用の燃料が尽きただけのことで、本番は大丈夫です。
受付を担当するのは、私が信頼を寄せているつわものたち。男子たちは、そのまま葬儀社でも重宝がられるような居ずまいです。
さあ、張り切って本番に臨みましょう。最初は私のソロです。客席の照明が落ち、ステージも暗い状態の中で登場するよう指示されていたのですが、ステージ袖でキューを出してくれる人はいないので、自分の判断で出ていかなければなりません。
ところが、照明の変化がよくわからず、タイミングがつかめません。私が袖にスタンバイしたのは、開演2分前のこと。1分以上が経過した頃、初めて客席の様子をチェックしましたが、すでに静まり返っています。
もういいのかなと思って出ていきましたが、どうやらフライングだった様子。でも、出てしまった以上、引っ込むわけにもいかず、そのまま楽器にスタンバイして、スタッフが困らないよう、ゆっくりと準備をしてから演奏を始めました。
1曲目はホルストの組曲「惑星」より“火星”。ロマンチックなクリスマスに、このような恐ろしげな曲で開幕なんてグロテスクな気もしますが、これで後に何を弾いても清らかに聞こえるかもしれません。まあ、真っ赤なイメージという点では、クリスマスに通じるものもありますね。
挨拶トークの後は、宇宙繋がりでドビュッシーの「ベルガマスク組曲」より“月の光”。これもエレクトーンソロです。ゆったりと柔らかで流れるような雰囲気を大切にしました。
続いては「月」をキーワードに「荒城の月」と「浜千鳥」を藤原さんにフルートで吹いてもらいました。浜千鳥の歌詞は「青い月夜の浜辺には~」と始まりますので、この流れにはぴったりです。
藤原さんからフルートの紹介。その間に、私は次の準備です。
日本の曲を演奏したところで、ふたたびフランスの音楽へ戻ります。今度はビゼーの「アルルの女」より、“メヌエット”と“ファランドール”を演奏しました。
メヌエットは藤原さんのソロ。ゆったりとした曲調ですが、息つぎのタイミングが難しく、なめらかに演奏するのは難しいのだそうです。ファランドールは藤原さんと玉村さんのデュオ。オーケストラパートも高らかで華やかな曲で、大いに盛り上がりました。
そして1部の最後は玉村さんによるフュージョンアレンジのファランドール。ボブ・ジェームスが編曲したビートの効いたスタイルで演奏しましたが、フルートの軽やかなアドリブは圧巻でした。
第2部も私のソロから。やっぱり出るタイミングがよくわかりません。「まあいいや、でちまえ」という感じで登場です。
続いて名古屋でも共演した伊藤さんのアリア。今回はこのシーズンにぴったりなプッチーニの「ラ・ボエーム」より2曲のアリアを歌ってもらいましたが、ミミとムゼッタという性格や役割の異なるふたつのキャラクターを見事に演じわけていました。髪をバッサリと切った姿が「パリジェンヌ」風でステキです。
そして松浦さんの登場。まずは「奥様女中」の中から、可憐なアリアを。昨年はスターバトマーテルで神々しいまでの歌声を聞かせてくれた松浦さんが、今回は男を狂わせる女を演じます。
次いで私のソロ「カルメン」の前奏曲に続き、「ハバネラ」と「ジプシーの歌」という超有名曲を歌ってもらいました。
ハバネラでは客席へ降りて男性客に絡みます。そこまでいくか!
ジプシーの歌ではフルートのふたりも加わって、豪華な伴奏に。
最後のコーナーではアベマリアを3曲。伊藤さんによるシューベルト、玉村さんによるバッハ=グノー、そして松浦さんによるカッチーニです。
カッチーニは私がソロでよく演奏しているリズム入りのウルトラモダンバージョンで歌ってくれました。クラシック演奏家はリズムが型にはまるのを嫌う傾向にありますが、このバージョンで歌ってくれたのは伊藤さんに続いて、松浦さんが二人目です。
アンコールはチャイコフスキー「胡桃割人形」より“葦笛の踊り”。これはフルートが3本必要なのですが、いつも舞台スタッフで手伝ってくれている小野寺さんが三本目のフルートとして参加してくれました。
そして最後には全員で「きよしこの夜」を演奏して幕となりました。
弾いてしゃべって2時間のステージでしたが、それぞれに魅力溢れる美しい女性演奏家たちに囲まれ、幸せなクリスマスとなりました。
今回のクローズアップゲストは、江原恵美子先生と星和子さん。いつも応援してくれる明るいおふたり。
終演後は遠方よりお越し下さった方々や、ピアニストの米津真浩さんカップルや、伊藤真友美さんご夫妻、エージェント泉さん、石原美登里先生、弟子たちとともに近くで軽くお茶を。今年最後の和やかな時間を過ごすことができました。
この「Songs from My Heart」シリーズ、次回は2011年7月を予定しています。どうぞご期待下さい!