今年のクリスマスは週末と重なり、多くのレストランでは、ロマンチックで和やかな客席とは対照的に、パントリーやキッチンは修羅場と化していたことでしょう。
クリスマス後から正月までの数日は、混雑の谷間となり、スタッフも訪れる客ものんびりと過ごせる機会のはず。そう思って、この10月にオープンした「ザ・キャピトルホテル東急」のダイニング「ORIGAMI」に出掛けました。
以前ここがキャピトル東急ホテルだった頃、つまり建て替える以前は、インターナショナルホテルならではの豊富なメニューや、名物ともなっているオリジナル料理を揃え、いつも活気に溢れる人気店でした。
改築中は赤坂東急プラザに臨時店舗を設け、こぢんまりと営業していましたが、旧キャピトル時代の流れをしっかりと引き継いでいました。
今回、改めてオープンした「ORIGAMI」は、ホテルの顔とも言えるメインロビーの脇に位置し、オールデイダイニングとロビーラウンジ両方の役割を持つ店となりました。
あらかじめサイトでメニューなどを見たところでは、アラカルトにはかつての名物料理がいくつか残っているものの、品数はグッと絞り込まれ、「さて、今日は何を食べようかな」という「選ぶワクワク感」がなくなってしまいました。
そしてコースは3種類。5千円台から1万1千円台まで、倍近い開きがありますが、コーヒーショップのイメージが強いこの店で、これは高いのではないかという印象が否めませんでした。
今日は、カジュアルな店だと思いながらも、混雑していることもあるかもしれないと、予約を入れてから出向きました。
店先に到着すると、他のお客さんが入口の係と話をしていました。「40分ほどお待ちいただくかと・・・・」「え~、そんなに待つの?」という会話から察するに、満席のようです。予約して正解でした。
名前を告げると、すぐに案内されました。入口右手にはラウンジのソファー席。その奥には窓に沿ってテーブル席が配置されています。テーブル席には紙のマットと紙ナプキンがセットされ、カジュアルなコーヒーショップであることを物語っています。
ところが、係はどんどんと奥に案内します。すると、白いテーブルクロスに、布のナプキン、大きなワイングラスや銀器がセットされたエリアがありました。このエリアの席数は24。更にその奥には2室の個室があります。
このような特別のセッティングをしたエリアがあるとは知りませんでした。日常のカジュアルな食事をと考えていたのですが、この席に座ったとたんに、ファインダイニングモードのスイッチが入ってしまいました。
ハンバーガーの気分は、ブイヤベースディナー(9,009円)にグレードアップ。ワインもムルソーを飲むことになりました。
ただ、このエリアに通されたからと言って、コースを注文しなければならないことはないようです。予約を入れると優先的にこのエリアが用意されるようですが、メニューはどのエリアでも同じなので、ここでカレーだけでもいいようですし、カジュアルなエリアでコースを注文することもできます。
笑顔を絶やさない男前のソムリエが優雅にワインを注ぐと、ほどなくアミューズが運ばれてきました。カブとヨーグルトをミックスしたものに、ウニとキャビアを添えてあります。
続くオードブルはパテ・ド・カンパーニュ。添えられた野菜も、ひとつひとつの味が濃く、印象に残りました。
小さなフレッシュサラダにも、一口大にカットされた野菜が隠れています。
いよいよメインディッシュのブイヤベースです。伊豆稲取から直送されたという金目鯛の他、貝や海老、しいたけ、野菜などがたっぷりと入ったブイヤベースは、熱々に熱したココットで運ばれてきました。半熟玉子とオランデーズソースのとろみがまたたまりません。もちろんガーリックトーストも添えてありました。
デザートは5種類の中からチョイスでき、今回はチョコレートフォンダンを選びました。これに加えて、コーヒーと小菓子が付きます。
それぞれの料理の味はさすがです。メニューを絞り込んだのも、本当に自信を持って提供できる料理に、意識と手間暇を集中させるためなのだろうと想像できます。その結果、すべての料理が自信作になったのでしょう。
ただサービスは十分に行き届いたとは言えませんでした。個々のスタッフが持つスキルに不足はありません。特に、ベテランのスタッフは、国際ホテルの名に恥じない洗練を感じさせます。
問題は、物理的にスタッフ人数が足りていない点。スタッフからは、目は行き届いているのに手が出せないというもどかしさを感じました。パンがなくなって追加を頼んでから届くまで15分、ワイングラスが空になってから10分、食べ終わった皿が下げられるまで10分。高級店ならば許されない時間です。
それを除けば、とても心地よいディナーでした。怒涛のクリスマスが終わって、直後にまたこの慌しさでは、スタッフの健康が心配になってしまいますが、正月には日枝神社詣での人たちでごった返すことでしょう。この店に穏やかな時間が訪れるのは、まだ先のことのようです。