いよいよ2011年の幕開け。外灘の遊歩道は深夜1時近いというのに、人の流れが途絶えることがありません。
ランタンを空に向けて放ったり、歩道で尺玉の花火を打ち上げたり、今も若者たちの歓声がホテルルームにまで聞こえています。
ウォルドルフ・アストリア上海のロビーではエレガントなイブニングドレスに身を包んだ美しい上海レディーたちがシャンパングラスを片手に明るく振舞い、「ロングバー」からは熱狂的に盛り上がった音楽が聞こえています。
夕刻までの静けさとは打って変わって、まるで映画のような世界です。
そんな中、2010年の最後を飾るディナーは、ロビーに面したニューヨークスタイルダイニングの「pelham’s」を訪れました。さすがにニューイヤーイブとあって予約で混み合っていましたが、なんとか席を用意してもらえました。
店内は小ぢんまりとしていますが、ホテル全体と調和するクラシカルで重厚なデザインを基調にしながらも、全面ガラス張りのキッチンに黒いコックコートの調理人に象徴されるモダンなテイストをブレンドした最先端のレストランです。
スタッフのサービスも実によく洗練されています。特にスキンヘッドの給仕長は、物腰といい、振舞いといい、目配りといい、サービス人の鑑とも言うべき存在で、彼がそこにいるだけでレストランの風格と居心地がぐんとアップします。初めて訪れる私にも、大切な常連客に対するような接し方でした。
まずテーブルアサインのついてですが、予約が混み合っていることを告げられた後、「用意はできますが、テーブルがお気に召すかどうか、実際にご覧になってお決めください」と言って、下見をさせてくれました。
確かに入口に近い「末席」でしたが、位置以外に他のテーブルと比べて劣る要素はなく、間際の予約でこれ以上望むことはないと答えると、満面の笑みが向けられました。
今夜のディナーはすでに内容が決まっており、それに不都合があるならば、アラカルトからのチョイスや料理の差し替えなど、できる限りの希望に応じるとのことでしたが、せっかくですからイヤーエンドのスペシャルコースを注文しました。
ソムリエは、とてもスタイリッシュな雰囲気を持つ中国人女性です。若いことを理由に、知識やセンスがどのレベルだろうかと心配しましたが、人は見掛けに寄りません。的確で節度のある勧め方をしますし、サービスのタイミングもパーフェクトでした。
周囲を見渡すと、中国人富豪が中心でありながらも、領事館関係者と思われる西洋人など、多様な客層です。この雰囲気だけを取っても日本ではなかなか味わえません。
料理は6品コース。スタートはフォアグラのパルフェ。煮詰めたポートワイン、砕いたカカオ、パルメザンのフォームを重ねてあります。
続いてはパスタ。年越し蕎麦を逃したので、年越しパスタで代用です。自家製タリアテッレを、チリペッパー、シソ、ウニ、キャビアで仕上げてあります。
温前菜は帆立貝柱の黒トリュフ詰め、細切りのリンゴ、根セロリ、トリュフエマルジョン。
魚料理はバニラ風味のカナディアンロブスター。へーゼルナッツブラウンバターリゾットを添えて、オレンジ風味のフォームをかけてありました。
肉料理は仔牛のメダリオン、セージのシュペツラ、オイスターマッシュルーム、ネギのグラタン添え。
デザートはライムでマリネしたフレッシュストロベリー、マスカルポーネの軽いクリームとオリーブオイルのアイスクリーム添え。
最後にコーヒーと小菓子という内容で、約17,000円。上海の物価から考えると高額ですし、料理の出来栄えにはもう少し改善の余地も感じられますが、とにかく雰囲気がいいので、不満はありませんでした。
たった2泊の滞在ですが、数少ないレジデンスのひとりということで、全従業員が私の顔と名前を覚えてくれ、館内で従業員と出会うと必ず名前で呼びかけられます。この心地よさをもう少し味わっていたいところですが、あと数時間したら出発。それまで、存分に満喫します。