4月3日の上海公演に関するインタビュー記事

4月3日にコンサート開催が決まっている上海からも、大地震への見舞いの言葉が多数寄せられています。海の向こうで「YUKIは本当に来てくれるの?」と心配してくれる人も少なくありません。

明石と同じように、私は必ず上海に行きます。明石と違って這っては行けませんので、泳いででも行く!と宣言しましょう。

このコンサートに関連して、私へのインタビュー記事が公開されましたので、ご紹介させていただきます。文面は中国向けですので、日本向けのものより口調がきっぱりとしていますが、ご理解下さい。

現物は見ていないので、どんな冊子なのかよくわかりませんが、写真入りで丁寧に紹介してくれています。

質問文は、実に率直でした。かえってズバリと聞いてくれたので、私も気持ちよくスパッと答えることができました。

オリジナルは全文中国語ですが、こちらでは日本語訳でご紹介します。

Q:多くの人々は電子オルガンと聞くと、現代的な楽器であって、ポップスやロックを連想しますが、神田さんはこの楽器について、どう思っていますか?

A:電子オルガンは非常に幅広い音楽を奏でられる夢の楽器です。ポップスやロックではひとりでバンドをやっている気分で演奏できますし、懐かしい歌謡曲や童謡も弾けます。ピアノやヴァイオリンでもジャズや民族音楽が奏でられるのと同じで、電子オルガンでもあらゆるジャンルの曲を弾けます。中でも電子オルガンが真価を発揮できるのがオーケストラで演奏されるシンフォニックな曲です。複雑に絡み合った旋律やハーモニーを、ひとりで演奏できるように集約し、かつそれぞれの楽器の音色を際立たせるには、高度な技術と音楽センスが必要ですので、この種の音楽を本気で奏でようという人は少ないのですが、実は一番やりがいのあるジャンルでもあるのです。

Q:ある人々は、電子オルガンはクラシック音楽を演奏するには「中途半端」な楽器でだと見ています。オーケストラにも入れないし、他の楽器ともなかなか組み合わせて演奏するのも難しいし、神田さんはどう思いますか?

A:電子オルガンはひとりですべてのことができてしまうので、他楽器とのアンサンブルには不向きだと思われてきました。実際、電子オルガンを弾く人は、ワンマンプレイを好む傾向にあります。しかし実際のところ、アンサンブルに適するかどうかは、楽器の特徴によるのではなく、弾く人の感性によると言えます。私はこれまで声楽家や二胡、揚琴、ヴァイオリン、サクソフォン、三味線など、さまざまなソロ楽器と共演をしてきました。その人たちはみな、電子オルガンとの共演を「かつてない心地よさ」だと言ってくれます。それは、音が多彩でダイナミックであることも理由のひとつですが、私の音楽性に包まれることで、安心して実力以上の演奏ができるというメリットが大きいのです。いずれはオーケストラと電子オルガンとのコンチェルトにも挑戦してみたいと思います。きっとスリリングで楽しいはずです。

Q:日本では、神田さんはエレクトーンでクラシック音楽を演奏する第一人者ですよね。でも、話によると神田さんは専門の音楽大学で音楽を専攻したわけではなかったそうですが、どうやってクラシック音楽を勉強したのですか?

A:音楽は勉強するものではありません。感じること、体験すること、それがすべてです。私は他の演奏家からたったひとつの影響も受けていません。だれかの影響を受けた瞬間に「二番煎じ」になるからです。では、何から学んだかというと、靴を作る職人だったり、ワインの醸造主だったり、スポーツマンだったり、世界中にいる優れた精神の持ち主から、そのスピリッツを学び、共感してきました。音楽はすべての人のこころにすでにあるものです。学んで身につけるよりは、自分を磨くことがすなわち音楽を磨くことなのです。

Q:神田さんの演奏はよく一台のエレクトーンでフルオーケストラの音を表現したと賞賛せれていますよね。どのようにしてこの域まで達したのですか?

A:電子オルガンでは一度にたくさんの音を重ねて演奏します。しかし、オーケストラを例にとれば、重なった音の糸をほぐしていくと、それぞれはひとつの音です。この一音に魂が宿っていなければ、いくらたくさん重ねても生きた音にはなりません。私はこの一音の価値を追求することからスタートしました。それは、本当に美味しいワインは、素材のぶどう一粒からして違うということに似ています。でき上がりばかりを意識せず、素材の段階からこつこつと丁寧に仕上げていくことを大切にすることで今のスタイルができ上がりました。そしてもうひとつは、常に指揮者の観点で演奏することを心掛けています。実質的にはひとりで弾くわけですが、私の心の中にはたくさんの演奏家がいて、それが代わる代わる、時には一斉に演奏しています。私の指の一本一本が、違う人間であるかのような感じです。

Q:神田さんは音楽のためによく世界中に歩きまわって、そして演奏して、まるで音楽の“苦行僧”(中国における修行僧)みたいですね。その時は、神田さんは何を一番獲得したいですか?希望する到達目標はなんですか?忘れられない思い出はありますか?

A:旅は私の心の糧です。そして音楽は人と人の架け橋です。動物相手にコンサートをやってもさして意味がありません。人の心に何かを届けたいと思って弾いています。旅ではその国の人々が何を求めているのか、どんな生き方をしているのかを感じ、私が何を届けられるかを模索します。そうした心の交流によって、私は成長してきました。忘れられない思い出は数知れませんが、上海で初めてのコンサートをした時、会場のお客様がみな静かに集中して聞いてくれたことがとても嬉しかったです。

Q: 神田さんにはたくさんのファンがいますよね?あなたはファンとのどうやってコミュニケーションを取っているのですか?

A:ファンの皆さんとは、コンサート会場でコミュニケーションを取っています。また、私のブログにコメントを寄せたり、メールをくれたりします。それには必ず返事を書きます。でも、中国語はまだまだなので、返事が遅くなると思います。

Q:今世界中を見たところ、クラシック音楽の将来はあまり楽観的でありませんが、神田さんはクラシック音楽の普及についてどう思いますか?

A:クラシック音楽はこれから何千年経っても決して色あせることはありません。クラシック音楽家が悲観しているのは、自分の暮らしぶりのことであって、音楽が衰退することではないのではないでしょうか。私たち音楽家が、人民に喜ばれ受け入れられる演奏を続ければ、クラシック音楽は永遠です。そのためには、私たちが培ったものを、若い世代に正しく伝えることが重要です。作品に敬意を持ち、丁寧な演奏を心掛け、音楽に命を宿すことの大切さを、若い音楽家に伝えたいと思っています。

Q:このコンサートは音楽性を重視したコンサートですが、お客さんは大抵入門クラスの方たちです。神田さんはこうしたお客さんのために何かの特別な用意をされてますか?

A:今回のプログラムは、クラシックファンの人にも、またはクラシックに詳しくない人にも楽しんでもらえるように工夫しました。クラシック作品の多くは、何度も聞くことによって、そのよさが深く理解できるようになるものが多いのですが、今回は、1度聞いただけでよさが伝わるものばかりです。頭で考えるのではなく、ただ心を開いて音楽を「深呼吸」して下さい。心の中に風景が見えてくるはずです。そしていつの間にか、心地よい幸せな気分で満たされるはずです。

Q: 今回演奏される曲目は、ミュージカルやオペラからの曲が多いですが、その理由は、この楽器のドラマチックな表現に適していると思っているからですか?それとも神田さんがただ自分が好きな曲だから選んだのですか?

A:ミュージカルやオペラには通常「声」があります。しかし、私の楽器では「声で歌う」ことができません。声を使えない条件の中で、私は「歌うように弾く」ことがとても得意です。音楽の中で最も印象に残るのは「旋律」です。その旋律が際立って美しい曲を集めたら、今回のようなプログラムになりました。私の「声なき歌」を存分に楽しんで下さい。