風に揺られて

昨夜から強い風が吹き荒れる曇り空の東京。自宅近所を流れる川の両岸をびっしりと埋める桜が、みごとに咲き揃っていて、見物がてら散歩をする人ばかりでなく、たまたま通りかかった人たちも足を止めて見入っています。

両岸から迫る枝が、水面に垂れこめるように伸びているので、幾重もの枝と花々が、ちょうど視線の高さに見えます。まるで鏡と鏡の間に立った時のように、永遠に続く世界をのぞき込む気分です。

今は風にそよぐ花も、数日後には散って、川面を花色に染めることでしょう。一昨日、晴れの空で見たものより、今日の桜は儚く悲しげです。

近くの線路沿いにも桜が連なり、こちらの見ごろはあと数日後の様子。この強風に、つぼみのまま散ってしまわないかと心配になります。

さて、来週に迫ったスリーメンコンサートの準備もいよいよ大詰めになりました。今、演奏予定曲の曲順を考えているところです。

今頃?と心配なさるかもしれませんが、私はすべての状況がクリアにならなければ、当日のことを決めない主義です。

実は、終曲として考えている「二胡狂想曲」の楽譜がまだ入手できていません。やっと日本に届き、今晩入手できる予定です。

そのオーケストラスコアを手にしたら、3人でアンサンブルできるスタイルに急いで編曲をします。

その他にも編曲が必要なものがまだ数曲残っています。一番慌てているのはYONEちゃんかもしれません。彼はとても真面目なので、早く楽譜が欲しいところでしょう。

でも、大丈夫。YONEちゃんの読譜力は私よりもずっと優れていて、私が一日掛けて読むものを、彼なら一時間で弾いてしまうはずです。

総合的に見て、どう考えても私自身が一番危機的なのですが、こうした危機には慣れっこです。

それよりも私が意識を注いでいるのは、同様に不安を抱えている二人の演奏家たちのモチベーションをベストな状態にコントロールという、私に課せられた最重要のミッションに対してです。

全容が見えずに不安な二人。しかも、二人はまだ会ったこともありません。実際に顔を合わせるのは12日、もしくは渋谷本番当日の13日です。

会った瞬間に意気投合させ、音楽的に一気に絶好調に持ち込まなければ、コンサートは失敗してしまいます。私は自分がよい演奏をすることももちろんですが、それより二人によい演奏をさせることの方が重要だと考えています。

ギリギリまで互いの顔も見ないなんて、古風な結婚式みたいですね。それぞれの感性とテクニックが出会った瞬間に弾ける火花をどうぞお見逃しなく!

それから、4月3日の上海公演の公式な反応がだいぶ伝わってくるようになりました。今日もコーディネーターとミーティングをした際、成果について詳しく聞かされました。

「ひとまず、そう悪くない反応だったんだね」と私。「悪くないじゃないよ、素晴らしくいい反応だよ」とコーディネーター。いくつかの講評も読みましたが、私が伝えたいと心に秘めていた思いを、音楽からきちんと読み取っていてくれていたのが嬉しかったです。

この先の展望にもよい兆しが感じられ、すでにいくつかのオファーが来ています。

日本はまだ控えめムードが強く、私を必要としてもらえるのがいつになるのかが一向に見えません。私はこのまま日本を拠点に弾き続けたいと思っていますが、必要とされるところに存在するのも選択のひとつなのかなと、ちょっと心が揺れています。