今日は横浜で約束ふたつ。いずれもオールドファッションがテーマです。まずは山下公園前にあるホテルニューグランドへ。横浜のみならず、日本を代表するクラシックホテルでのお目当ては、懐かしい洋食メニューです。
こちらの写真はご覧の通りプリンアラモード。昭和のままの器に、昭和のままの味わい。プリンは最近流行りのゆるゆるタイプではなく、しっかりと硬めです。バニラアイスクリームもレトロな味がします。
そしてこちらはシーフードドリア。今では全国でお馴染みの料理ですが、ここが発祥だと言われています。
これもまたオーソドックスで懐かしい味わい。料理がどんどんモダンに進化する中、たまにレトロな一皿を頬張ってみたくなりますが、そんな時に選ぶ店がここニューグランドの「ザ・カフェ」です。
クラシックホテルならではの折り目正しいサービスを期待しましたが、スタートの印象は今ひとつでした。
店内はまだガラガラなのに、入口近くのソファー席に詰め込まれそうになったのですが、すぐ隣のテーブルには赤ちゃんと小さな子ども連れファミリーが座っていたので、別の席にして欲しいと頼みました。
すると露骨に嫌な顔をして、「じゃあ、あちらに」とつっけんどんな態度を取られました。それが気に障ったので、席に着いた際に、最初に席を選んだ理由と態度について問い質したところ、「ソファの席から案内することになっている」とのこと。
今どき、店の都合をこうもはっきりと押しつけるケースは稀です。これもある意味、レトロ?
しかも「うるせ~客だ」と言わんばかりににらみ返されました。でも、今日は懐かしい料理を食べるために東京から来たと言うと、にわかにサービスが調子よくなり、その後は快適に食事をして、気持ちよく店を出ることができました。
次いで向かったのは、何台ものエレクトーンを所有している方のアトリエへお邪魔しました。そのコレクションは半端じゃありません。歴代の最高級機種が、まるでショールームのように並べられていて、その眺めは圧巻です。
とりわけ驚いたのは、伝説の最高機種GX-1が2台も揃っていること!そのうち1台を弾かせてもらいました。
このエレクトーンは1970年代に700万円という高額で発売された機種。世界初のポリフォニック(複音が出せる)シンセサイザーとして、エレクトーン愛好家のみならず、世界中のシンセサイザー奏者にとって憧れの楽器でした。
パネルにはたくさんのスイッチが並び、デザイン的にもカッコいい機種です。写真では見えませんが、ペダル鍵盤は鏡面メタル仕上げで、ピッカピカです。アナログ回路から出る音は、近未来的でありながらも温もりがありました。
引き出しにもレバーがたくさん。
スイッチのカラーもそそられます。この時から、現代のエレクトーンになくてはならないイニシャル、アフター、ホリゾンタルのタッチコントロールが、1st、2nd、3rdという名称で実現していました。
音色そのものをシンセサイズ(合成)するトーンモジュール。マッチ箱ほどの大きさで、一台のシンセサイザーの役割を持っています。このモジュールを70個装着できるようになっています。
そしてFX-1。こちらも450万円という高級車並みのプライスです。
すでにパネルからレバーが消え、ボタンとスライダーのみになりました。とにかくステージモデルとして見た目がまずステキです。機能や音色は限られていますが、それでも無限の表現力を感じさせます。
ほかにHX-1もあります。FX-1の後継機種として90年代初頭まで活躍したのですが、一気にデザインが変わった、節目の楽器でもあります。ステージモデルから3段目の鍵盤が消滅したのも、この機種からです。
アトリエのオーナーさんに、HX-1で何曲か演奏をしてもらいました。軽やかに動き回る手指。無駄のない操作。そして限られた機能を何倍にも増幅させる豊かな発想。これぞエレクトーンの真髄だと思わせる演奏でした。
STAGEAになってから、複雑な操作をあらかじめ記憶させたデータを用いて、リアルな演奏をすることが可能になりました。その一方で、「いかにリアルか」がひとつのゴールになったために、限定的な機能内で工夫を凝らす機会は減ったように感じます。
例えば、スコア通りの忠実さでオーケストレーションを再現することは、過去の機種では不可能でした。
ある楽器の音を出したいと思った時、その音源が搭載されていなければ、別の音を使ってニュアンスで表現するしかありませんが、かつて音色に限りがあった時の方が、そうした表現力を磨く機会は今より多かったはずです。
今は、むしろリアルな音色に満足してしまって、ニュアンスで表現を深めるという努力まで至っていない演奏が増えているように感じます。
エレクトーンがどんなに進化しても、その魅力も醍醐味も、結局は演奏する人の表現力に尽きることを、今日は改めて感じさせてもらいました。