absolute silence

「ふだん、どんな音楽を聴きますか?」という質問をしばしば受けます。

コンサートではクラシック音楽をメインに演奏していますので、いつもクラシックを聴いていると思っている方も多い一方で「個人的にはどんな音楽を好むのか」という点に興味を持って下さる方もいらっしゃいます。

私は、コンサート会場を除いては、一切といっていいほど音楽を聴きません。そればかりか、普段の生活では可能な限り無音の中で過ごすよう、かなりの神経を使っています。

オーディオ設備や携帯音楽プレイヤーも一応持っていますが、ほとんど使ったことがありません。

たとえば、とあるシンフォニーを演奏しようと思った時、お手本として著名な管弦楽団のCDを聴けば、おそらく大きな刺激を受けることができるでしょう。でも、その刺激は私自身が演奏する際の邪魔にしかなりません。

それは、参考演奏から瞬時に感じとれることを、あえてスコア(総譜)との対話を繰り返しながら自ら紐解いていく作業に、私は大きな魅力を感じていますし、他人の二番煎じはしたくないからです。

あくまで自分の中から湧きあがる音楽だけで弾きたいと思った時、他人が奏でたあらゆる音楽は必要ないのです。

だからといって、人の演奏を聴きたくないというのとも違います。純粋に観客として、あるいは友人の応援として、演奏会に出掛けるのは大好きです。その時ばかりは音楽家としてではなく、ひとりの人として心を開き、音楽を迎え入れます。

ジャンルやスタイルも関係ありません。さすがに爆音が響くロック系は、終演後に耳が数日間使えなくなるので行けませんが、ポップスや民謡、アマチュアバンドなど、その場の雰囲気に溶け込みながら楽しんでいます。

そんな私が、滅多に使わない携帯プレイヤーで音楽を繰り返し聴き続ける時があります。

それは、楽譜のない作品を、完全に耳でコピーしなければならない時。苦手なことではありませんが、効率が低く、やたらと時間が掛かるので、なるべく避けたい作業です。

こうしてブログを書いている今も、周囲に聞こえるのはキーボードを打つ音とハードディスクのファンの音だけ。できるだけソフトなタッチを心掛け、マウスは無音タイプを使っています。

でも、私の心にはいつでも音楽が溢れています。

(こちらは近所の庭桜。ひっそりと、でもふっくらと咲いていました。)