ひさしぶりがふたつ

嵐のような東京で、ひさしぶりの出会いがふたつありました。どちらも私が心から敬愛する音楽家です。

おひとり目はソプラノのサイ・イエングアンさん。つい先日も彼女の演奏会を伊藤真友美さんと鑑賞しに行きましたが、その時はちょっと挨拶しただけで、会話らしい会話はありませんでした。

最も近い共演は昨年の5月。その時も、簡単なリハーサルと本番でご一緒させてもらっただけで、深い会話はできませんでした。

ステージを終え、「また、ゆっくり会いましょうね」と別れてから1年弱。やっとその機会に恵まれました。今日はサイさんのご自宅へうかがいました。彼女のイメージにぴったりな白亜の宮殿です。

広々としたリビングホールにはグランドピアノとゆったりとしたソファが置かれ、コンサートで受け取った薔薇たちが飾られています。かつてはリハーサルで何度も通ったところですが、今日は6年ぶり。

ソファに掛けながら、この6年の出来事が次々と心に浮かんできました。サイさんとの共演で私が学んだことは量り知れませんし、私が音楽を続けていく上で欠かせない出会いでした。

かつて、私はサイさんと会うと、ひどく緊張してしまい、自分の考えや気持ちをきちんと伝えることができませんでした。彼女の持つ圧倒的なオーラに、私は意識する間もなく屈していたのです。

それが、今日はパニックにならずに、落ち着いて話をすることができました。6年間の経験が私を精神的にもタフにしてくれたのだと実感すると共に、サイさんも包容力のある女性として更に花開いたように感じました。

サイさんからはいくつか課題をもらったので、その成果を皆様にお届けできる日がきっと訪れることと思います。

サイさんのお宅をお名残り惜しく後にして、新宿へと向かいました。ふたり目のミーティングは、エレクトーンをなさっている皆様にはお馴染みの松本淳一さん。

松本さんとは過去に何度か接点がありましたが、いずれも本当にかすった程度。ほとんどまともな会話をしたことがありませんでした。今回は、松本さんと親しい方のご仲介で、お目に掛かる機会を設けてもらえました。

私は松本さんの演奏には格別の敬意を抱いています。生の演奏を聞いたことは、ほんの数曲しかありませんが、それでも、そのインパクトは強烈でした。

と言っても、今回お目に掛かったのは、演奏家としての松本さんより、作曲家としての松本さんにお願いがあったから。10月14日に予定しているリサイタルで初演する作品を松本さんに委嘱したかったのです。

昨年は石田匡志さんの作品を初演しました。エレクトーンの概念にとらわれることなく書き上げてもらった曲は、エレクトーンを弾く私にとって新鮮なことの連続でしたので、ひとつの新しい境地を拓くことができました。

松本さんは逆にエレクトーンについて私よりもはるかに精通していますので、石田さんとはまったく違う切り口で書き上げてくることでしょう。

あまり要求を伝えすぎると、世界観を限定してしまうことにもなるので、リサイタルのおおまかなコンセプトと、作品を委嘱する目的を簡単に説明するにとどめました。

どんな作品になるのか、完成が今から待ち遠しいです。そして、演奏家としての松本さんとの接点もさぐっていこうと思います。