せっけん箱

地震で崩れた荷物を整理していたら、オープンラックの奥から、せっけん箱がひとつ出て来ました。中は空でしたが、もともと入っていた石鹸の香りがかすかに残っています。

このせっけん箱は、TDRのオフィシャルホテルのひとつ、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルの、20年以上前のものです。

今のこのホテルは、ファミリーやグループで気軽に楽しく滞在できるアクティブなアーバンリゾートですが、開業当初はかなりの高級路線でした。

まだ東京にも外資系ホテルがほとんどない時代に登場したアメリカンスタイルの大型高級リゾートホテルは、ホテル好きな私にとってはTDLのオープン以上にエキサイティングな出来事でした。

開業間もないこのホテルに最初に泊まった時は、なぜかおぐけんと一緒でした。翌日から香港へ旅立つにあたり、無理矢理ここで前泊するスケジュールを組んだのです。

当時のホテル名は、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル&タワーズ。最後にある「タワーズ」というフレーズは、質の高いサービスを誇るこのホテル内で、よりハイグレードなサービスを提供する特別フロアを表していました。

チェックインはタワーズ専用ラウンジのソファに掛けて、ウェルカムドリンクのミモザを飲みながら。客室は、当時としてはかなり広いだけでなく、温かみがありゴージャスな印象もありました。

バスアメニティはダンヒルなどの高級ブランドを揃え、夕方のターンダウン時には、ナイトテーブルにコニャックやリキュールがグラスとともに用意されました。

翌朝には、モーニングコールの後、バトラーが高級ボーンチャイナと銀器でコーヒーを運んで来て、バルコニーで東京湾の爽やかな風を感じながらスタートを切るという、素敵な演出も。

備え付けの便せんや封筒には銀箔で宿泊客の名前が入ってて、スイートに泊まると本革のカードキーケースを付けてくれるなど、どんなお客にもVIPレベルのサービスを提供していました。

ホテルライフに求められるものは、当時と今とでは大きく変化していますが、ひとがひとにするサービスに感じる心地よさは不変です。

私がこのシェラトンタワーズトーキョーベイをいっぺんで気に入った理由は、スタッフたちのチームワークと、真摯なサービスタッチに惚れ込んだからです。

その先頭に立っていたのが、女性のタワーズマネジャー。どんな要望にも耳を傾けてくれ、いつでもきちんと対応してくれました。他のホテルなら、面倒がられて軽くあしらわれそうなことにでも、彼女は誠実でした。

それから20年以上経った今も、彼女以上に優れたホテルスタッフには出会えていません。

このせっけん箱は、当時のタワーズ客室に備えられていたもの。ほのかな香りとともに、思い出がいっぱい詰まった玉手箱です。