ブランクを置いた後で楽器に向かってみると、日常のように弾き続けている時には感じなかったことを、次々と発見することができ、とても新鮮です。
昨日のブログを書く直前まで稽古していた時は、それなりに本気で弾いているつもりでした。でも、一晩明けて改めて弾いた時は、まったく別の次元に突入した感覚になり、前日の本気は思いこみであったと気付きました。
前日の稽古では、感覚を思い出すように心掛けながら、丁寧に着実に音楽に寄り添う感じで弾いていたのですが、翌日には、ある瞬間から何もかもが変わりました。徐行からいきなりフルスロットルになったという感覚でしょうか。
それまで冷静だった心の中が急に熱くなり、アドレナリンが放出されていることが感じられ、あとはどんどん自分でコントロールしにくい領域に入っていきます。
そのコントロールしにくいところで、いかに脱線せずに進むかは、日頃の丁寧な稽古がものをいうのかもしれません。
でも、いくら丁寧な稽古を重ねても、「魂による表現の領域」にシフトするためのスイッチを握っておかなければ、単なる正しい演奏で終わってしまいます。
とりあえず、今回は「本気スイッチ」が錆ついていないことはわかりました。必要とあらば、いつでもシフトできます。なので、今しばらくは確実な稽古モードで、より安定した演奏を目指します。
では、こうした「モード」を自在にシフトできるようにするには、どうしたらいいのでしょうか。
それには、自分の気持ちを完全に解放した時に何が起こるのかを知ることが大切です。
無上の歓びや、抑えようのない怒り、あるいは絶望など、極端な局面に触れた時、人がどうこうではなく、自分自身はどうなるのか。実際に体験すればすぐにわかりますが、そんな経験は人生の中でそう何度もは訪れません。
でも、人間には想像力を駆使すれば、こうした強烈な感情を、共感ではなく自分の感覚として深くとらえることができます。
その時の心の状態と、体への反応として表れてくるものを、自分の中にストックして、いつでも再現できるようにしておくのです。泣きたい時に泣ける俳優と同じかもしれませんね。
音楽から伝わるものは抽象的ではありますが、演奏しながら発するものはリアルでありたいと思っています。