演奏会やコンクールなど、人前で演奏する時に限って、緊張で思うように体が動かず、日頃の成果が発揮できなかった。そんな経験をした人も少なくないことと思います。では、どうしたら緊張せずに、落ち着いて演奏することができるのでしょうか。
そういう私も緊張と無縁ではありません。ステージに向かう際はいつでも胸がドキドキし、そわそわと落ち着かなくなったり、体のすべてが自分のものではないような不思議な感覚にとらわれることがあります。
頼むから落ち着いてくれと念じても、一度騒ぎだした緊張の虫は、なかなか静まってはくれません。
でも、そもそもなぜ緊張するのでしょうか。私の場合は、寄せられる期待に応えたいけれど、その自信が十分でない時に緊張します。
失敗したらどうしよう。予期せぬことが起こったらどうしよう。そもそも、今日の観客は私の演奏を受け入れてくれるのだろうか・・・などなど。不安要素を考え出したら、もう切りがありません。
これらを克服するには、すべてを受け入れるしかありません。気を逸らしても、気休めを言っても無駄です。
失敗したら・・・恥をかけばいい。予期せぬことが起こったら・・・可能な限り善処すればいい。演奏を受け入れられなかったら・・・それはそもそも演奏者の責任?
あらゆることを覚悟の上でステージに進めばいいのです。期待(自分が自分に課したものを含めて)が重くのしかかったとしても、それを受けて立ち、やれるだけのことを本気で実践する。期待されること自体が名誉なのですから。
そして、一度できたことは必ず今度もできると信じましょう。いささか乱暴かもしれませんが、ある程度開き直らなければ、舞台で堂々と振舞うことなどできません。
それから、私の経験上、緊張は心の隙から忍び込んで来ます。腹をくくったらば、今度は隙を埋めることが肝心。一意専心の姿勢が、緊張を忘れさせてくれるはずです。
演奏する曲のことに集中して、心を音楽で満たしましょう。観客は全員がパワーを与えてくれる応援団だと思えばいいのです。まあ、例外もいるかもしれませんが、この際、細かいことは気にしない、気にしない。
何も濁流に飛び込めと言われているわけではなく、それどころか、自分が最も得意とする演奏を披露するのですから、緊張よりも歓びを先に立てましょう。
それでも足が震えてしまったら、どうか音楽を私のもとに、と祈って下さい。すると、精霊たちがやってきて、見守ってくれることでしょう。素晴らしい作品をお客様と分かち合える、満ち足りた時間となりますように。