リサイタルの翌日、神戸から来た美食家の友人と共に、ゴードン・ラムゼイを訪ねました。演奏会の余韻と、ますます冴えているレストランとが、どのように響き合うのか、とても楽しみ。
席は、入口近くのブース席を予約。奥のホールの方が、高い天井や大きな窓により広々と感じられるのですが、照明を落としてかなりムーディ。料理をしっかり目でも味わうには、比較的明るいブース席の方がいいようです。
ただやっぱり気になるのは、女性陣の靴音。ブース席の脇は通路にもなっているので、人の往来が頻繁にあります。従業員も靴音を気にしながら歩いているようですが、時に急ぎ足になった時などには、コツコツと響いてしまいます。
さて、この日の料理は、まだ新しくなったばかりの秋の献立。3種類あるコースのうち、22,000円のメニュープレステージを予約してありました。
ワインはリストから選ばず、ソムリエお任せで、ボトルではなくバイザ・グラスでいくつかの種類をアレンジしてもらいました。
まずはシャンパンで乾杯しながら、カナッペを。手でつまめる品が5種。どれも一口サイズですが、それぞれにインスピレーションと食欲を刺激する味覚が楽しめます。
アミューズは栗のニョッキ、うずら卵のポーチドエッグ、セロリ。ランチにこればっかりをお腹いっぱい食べてみたいと思ったりして。
冷前菜はタラバガニのカネロニ仕立て。トマトやバジルで爽やかな風味を感じさせつつも、下に敷かれたピスターシュとヨーグルトのソースはリッチで濃厚。添えられたドライジンジャーエールのグラニテやレモンのすっぱいソースがアクセントに。
温前菜はフォアグラのソテーとウズラのデュオ。ウズラは骨付きですが、ほろっと外れるほどやわらか。中央のアーモンドとエスプレッソのフォームは、かき氷に掛けたらきっと最高。
魚料理は舌平目。メニューには雲丹をまとったアーノルド・ベネット風とあります。この料理は前回にも食べましたが、その時も好印象だったので、アンコールもウェルカムです。
アーノルド・ベネットは英国の小説家。私より100年前に生まれた人で、ロンドンの高級ホテルに滞在して執筆することしばしばだったとか。サヴォイ滞在中、エスコフィエにリクエストして生まれたオムレツが今にも受け継がれており、きっとこの料理もそこから着想を得たのではないかと思います。
メインディッシュは牛フィレのロースト。もちろんフィレも美味しいのですが、陰ながらも存在感が大きいのは、クレピネットで包まれたテールのブレゼ。
野菜たちの味わい、歯ごたえともに印象的で、仕上げに掛けられるトリュフや野菜からのブイヨンも美味。メインディッシュ前にお腹いっぱいでも、軽やかで香りのいいハーモニーのおかげで、全部いけちゃいます。ポテトで見立てた牛骨もユニーク。
アヴァンデセールはホワイトチョコレートのパンナコッタ。黒オリーブのキャラメリゼとともに濃厚な味わい。添えられたフローズンラズベリーは、思いのほかふんわりした食感で、意外性がありました。
そしてこの店ではお馴染みのジャンドゥーヤスフレ。ナッツの香ばしさが印象的です。
メインのデセールはアールグレイのパルフェ。けっこうな分量ですが、案外ペロッと食べてしまいました。パルフェ自体は濃厚でも、上に載ったハイビスカスのグラニテが口直し代わりとなって、飽きさせません。
以上がコース。コーヒーは別料金(1,350円)で、小菓子とともにサービスされます。
土曜日でホール席は満席だったそうですが、それを感じさせない穏やかな雰囲気でした。料理のタイミングも素晴らしく、申し分なし。すべてが丁寧に仕上げられ、テーブルに載った皿を見るだけで、料理人たちの細やかな仕事ぶりが目に浮かぶようでした。