店に頼みごとがあり、支配人に会うために来店。そのついでに軽く食事をすることにしました。
この店ではいつもアラカルト。「案内のある旅」と表現されるコース料理を一度も頼んだことがありません。はやり旅は自由気ままにというのが私の理想です。
でも、店の魅力が凝縮されているはずのランチコースも、一度は味わってみたいもの。今回はさほど空腹でもないので、手軽なコースを選ぶつもりで品書きを手にしました。
その間、テーブルには3種の突き出しが並びます。スパイスが香ばしいサモサ、パルメザンのスティックに梨を載せたもの、そしてブランダード。
午後からの予定もあるので、酒は飲まんと決心していたのに、ソムリエの笑顔にイチコロ。でもグラスワインで我慢です。
料理はやっぱりアラカルトになりました。だって、デセールの欄で、ブルーベリーのスフレが私を呼んでいるんですから。真っ先にスフレを選び、他の料理は勢いで適当に決めました。
アミューズはお馴染みのかぼちゃのヴェルーテ。定番ながら、いつもアクセントが違います。今回は柑橘の酸味が、夏の記憶を呼び覚まします。
パンは6種類が用意されますが、一番のお気に入りはキューブ型のブリオッシュ。
前菜に選んだのは、「鰻 シェーブルチーズ ハーブとビーツ」と名付けられた一皿(4,620円)。料理名に調理法のヒントが少なく、仕上がりがイメージできないところに惹かれました。
運ばれてきたのがこちら。皿が置かれた瞬間の爽やかな香りが今も忘れられません。何の香りか尋ねると、挽き立ての黒コショウと、フレッシュなライムのコンビネーションとのこと。見た目は蒲焼風ですが、ほんのり甘いビーツのソースが鰻とよく合います。
メインの料理にはオマール海老を(10,780円)。調理の前に活きたオマールがテーブルに最後の挨拶。
まずは半身が銅鍋に用意され、目の前でカルバドス酒フランベされます。
それを野菜のトーストを添えた皿に盛り付け。別に用意されたカンカルバターで味を整えながらいただきます。
半身を食べ終わると、もう半身が運ばれてきます。今度は旬のキノコと共に。メニューには「ジャンとピエールトロワグロのレシピ」とありました。
アヴァンデセールはヴァニラ風味のシュークリーム。中央のソースはカルダモン。手前のグラスはレモン。ほんの一口ずつでも、明確な存在感と印象を残します。
お待ちかねのデセールは「ブルーベリーのスフレ メープルシロップとココナッツのグラス」(2,750円)。出来立てスフレは、いつでも幸せの味。ココナッツのグラスを一口食べたら、今すぐにハワイに行きたくなってしまいました。
いずれの料理も想像を超えており、インスピレーションを刺激しながら味覚にとどまらない印象を残してくれます。
小菓子を頬張りながら、すぐ近くにある厨房の様子を覗き見るのも楽しいもの。そこには緊張感がみなぎり、誰もが調理に真剣勝負で挑んでいます。