唯一の肩書き

私の肩書きはエレクトーン奏者。以前は、ピアニストでもあり、キーボーディストでもあり、作編曲家でもあり、それらをひっくるめてミュージシャンだったこともありますが、今は唯一、エレクトーン奏者です。

エレクトーン演奏を生業にしている人たちは、ピアニストやヴァイオリニストに比べたらごくわずか。音楽界でも「珍種」の部類かもしれませんが、かといって、手厚く扱われることもなく、どちらかというと見過されがちです。

エレクトーン奏者は、ピアニストのような「~ist」という表現がありません。強いて言えば「電子オルガニスト」ですが、ピンときませんね。

エレクトーン演奏家という表現も可能ですが、どうも前後の単語で重みが異なり、アンバランスな感じです。

エレクトーンプレイヤーという表現もしばしば使われます。これはどちらの単語も軽やかでバランスはいいのですが、クラシック音楽よりポピュラーミュージックにふさわしい印象があります。

そんなこんなで、しっくりくる肩書きがなかなか見つからない中、コンサートの進行役やディレクターから「何とご紹介したらいいですか?」と尋ねられることがあり、私はその度に困惑して来ました。

それは、本当に呼び名だけの問題だったのか。自分の胸に手を当ててよく考えてみると、エレクトーン弾きという職業を恥じていたのかもしれないと気付きました。

特に、一流のクラシック演奏家たちと同じ舞台を踏む時には、関係者のほとんどから格下扱いされ、苦い思いを重ねて来ました。「ハモンドさん、あっち」と顎で扱われたこともあります。

でも、それは演奏前の話。そんな屈辱的な扱いを受ければ受けるほど、私は燃えます。よし、よい演奏で見返してやろう。悔しさをバネにして、圧巻の演奏をするのです。

そして演奏を終えて舞台袖に戻る頃には、周囲の視線や接し方がまるで違っています。ゲンキンな話、と思われるかもしれませんが、よい演奏をした者勝ちという舞台の世界では、ありがちでごく自然な反応です。

こうした経験の積み重ねから、弾く前に肩書きで虚勢を張っても仕方がないと思うようになりましたし、「私はエレクトーン奏者です」と堂々と言えるようにもなりました。

そして、エレクトーンを演奏するという強い意志を示すためにも、他の肩書きはすべて外し、今は唯一「エレクトーン奏者」を名乗っています。エレクトーン奏者であることを更に誇れる時代が来るよう、普及と品質の向上に貢献していくつもりです。