2月に入り黒トリュフのシーズンはいよいよ終わりに近づいています。高価なことそのものが価値であり、そんなに美味しくないと言われることもありますが、やはりトリュフの香りはトリュフならではの甘美な夢を見せてくれます。
そんな黒トリュフをふんだんに使ったコースを味わいに、ミッシェル・トロワグロを訪ねました。
この日、エントランスで迎えたのは見知らぬ係でした。馴染みのメートルドテルが休みであることは、前日にもらった電話で聞いていたのですが、人が違うだけで随分と印象が違いました。
名前を聞かれ、入口付近のウェイティングコーナーで待つように言われたのは、店としては通常の対応です。でも、顔を見るなり笑顔で歓待されることに慣れていると、その通常通りがそっけなく感じられるのです。
ウェイティングコーナーに案内されて「こちらでお掛けになりお待ちください」と言われた時点でそこには先客が座っており、さてどうしたものかと困惑しました。これもスマートではありません。
今日来たのは失敗だったかと気分が沈み掛けましたが、プルミエメートルドテルがテーブルへ先導してくれたのをきっかけに、いつもの心地よい時間に戻りました。
熟成したシェリー酒を頼み、まずは突き出しを味わいながら、店の空気に調和していきます。サモサ、パルメザンビスキュイと洋梨、菊芋のペーストバルサミコ。
今日は黒トリュフコースを決めていましたが、まずフレッシュトリュフの状態をテーブルでチェックさせてくれます。ガラスのケースを外すと、たちまちあの香りがふんわり漂ってきます。まるで香りが目に見えるかのよう。
ここに来るまで疲労で頭痛がひどかったのですが、トリュフを嗅いだとたんに治りました。気付用に持って歩くべきかも。さて料理がいよいよ楽しみになりました。
一皿目はタイル皿に載った栗のフレークと黒トリュフ、トリュフ風味バター。バターはパンに付けながら。
冷たい前菜はポワローのクロカンと胡桃のかけら。真空調理したポワロー葱は、カリカリというよりキュッキュと鳴る感じ。胡桃オイルの香ばしさと葱の歯触りがトリュフを引き立てます。
温かい前菜は玉ねぎのコンポートのラヴィオリ。塩昆布のように見えるのがトリュフ。玉ねぎの甘さが際立っていました。
続いて帆立貝とアンディーブ。シンプルなだけに、素材の味がはっきりと感じられます。
魚料理は鮟鱇のロティ。トリュフのエッセンスを封じ込めた薄い豆腐みたいなもので包んであります。ソースはバジルのペースト。
肉料理は小鳩 フォアグラのトランシュ。鳩の胸肉とフォアグラを厚切り黒トリュフでトランシュ(区分け)してあります。アメリカンドッグのように見えるのはもも肉。ジビエっぽい野性的な味わいでした。
フィンガーボールが添えられましたが、指を入れてビックリ。熱湯ではないまでも、湯加減としては熱すぎました。
チーズディッシュは洋梨とパルメザン。トリュフを練り込んだマスカルポーネと洋梨の相性はパーフェクト。パルメザンは皿に散らしてありました。
デセールはヘーゼルナッツショコラ“アリバ”。こちらは本物の黒トリュフではなく、トリュフチョコレートがテーマ。チョコの「土」の中から「トリュフ」を探し当てるという見立てです。
「アリバ」はエクアドルの高原の名前で、チョコレートの原産地を意味しているとのこと。チョコレートはイタリアのドモーリ製だそうです。
食後のコーヒーと共に小菓子。
これだけの皿数ですが、一品ごとは軽やかなので、トータルでちょうどいい分量、満足度だけは満タンという印象。気分も体調もトリュフ療法で全快です。