雨の土曜日。帝国ホテルのロビーは、待ち合わせの人やチェックインを待つ人で賑わい、華やかなのに落ち着いているという、他にはない雰囲気。ロビーの一角には歴代の建物の縮小模型があり、この目で見たことのない往時の様子をも想像させてくれます。
今夜はタワー地階にあるラ ブラスリーでディナー。本館からは地階のアーケードを通って移動。
上品な店が軒を連ねるアーケードの店先には、よい品がたくさんディスプレイされているのですが、ここだけ数十年前に時が止まってしまったかのようなイメージ。今なお変化を好まない人々に愛されているホテルだからかもしれません。
ラ ブラスリーはパリの街角にありそうな小粋な佇まい。タイルの床やえんじ色のロングソファー、白いテーブルクロスと間隔の近いテーブル配置はもちろん、勢いのあるサービスぶりもブラスリーならでは。でも、味と値段は帝国ホテルそのものです。
帝国ホテルではこの店を「トラディショナルダイニング」と位置付けており、帝国ホテルの長い歴史の中で育まれた伝統的料理を集結させています。
ちょうど「マリリンモンロー特別メニュー」というプロモーションを開催中だったので、そのコース料理を目当てに来店したのですが、メニューを眺めていると、その隣りに書かれている「伝統のフルコース」の方が美味しそうに思え、あっさりと宗旨替え。
隣席の母娘がそのマリリンコースを食べていたのですが、見た感じ料理のポーションが少なく女性向きだったことも、伝統コースに気持ちを向かせました。
特にアミューズもなく、カゴ入りのパンがポンと置かれ、前菜が来るまでの間、パンをかじって時間を潰します。
前菜は「旬の蛍イカのマリネとおめでたい海老のカクテル仕立て」。ゼリー寄せにしたカクテルソースがユニーク。モダンな四角い皿に盛ってあるのは、トラディショナルに反する印象です。おめでたいという感じもしないし。先が思いやられ始める瞬間。
スープは「帝国ホテル伝統のダブルビーフコンソメ 紅白のロワイヤルを浮かべて」。ここからはすべてテーブル脇(というか背後)でのゲリトンサービス。でも、私は壁に向かって座っていたので、サービスの様子はまったく見えず終い。
魚料理は「真鯛の塩釜焼き 桜の香り 香草の効いたブールブランソース」。桜色の塩に包まれた真鯛は、ほんのり桜の香り。桜餅みたい。ブールブランソースは懐かしくてホッとする味。だんだん調子が上がって来ました。
メインディッシュは「ラ ブラスリー特製ローストビーフ 筍や季節の野菜と濃厚なグレービーソース」。しまった。筍の一文字を見極められなかったのは不覚。でも、ローストビーフは火の通り加減が素晴らしく、久しぶりに美味しいローストビーフに出会いました。
デセールは「チェリージュビリー」。クレープシュゼットと並んで、「目で楽しむトラディショナルデザート」の代表格です。鍋を握る給仕は、これに付ききりというわけでなく、時折姿を消してはローストビーフを切ったり、ワインを注いだり、バタバタと忙しそう。
仰々しいパフォーマンスの割には、でき上がりの見た目はなんともしょんぼりなチェリージュビリー。でも、味はとてもよかったです。
これにコーヒーが付いて11,000円。結果的にはマリリンよりも満足だったと思います。隣席の母娘でさえ、量的に物足りないらしく、メインディッシュの後に料理を追加していましたから。
コストパフォーマンスとして見れば抜群ではないかもしれませんが、たまにはこうした20世紀の味を楽しむのも、20世紀生まれの私には嬉しい体験です。さて、これから最終便で関西空港へ。スーパーレッスンウィークの始まりです。