一昨日にはツァオ・レイの記念すべきリサイタルで共演者を務めた上海音楽庁。そして今日は一年ぶりのウィークリーラジオコンサートのために訪れた上海音楽庁。この美しい音楽の殿堂を、ホームグラウンドのように感じ初始めています。
コンテンポラリーな演出が施されたツァオ・レイのリサイタルとは対照的に、クラシカルな建築美を活かしたセッティングとなった今日の音楽庁。新しい楽器・エレクトーン、そして伝統ある二胡。ツァオ・レイと私それぞれの音楽性を象徴するかのようにも見えます。
午前10時半開演のコンサートですので、朝9時のオープンと同時に会場入りしても、リハーサルの時間はほとんど取れません。音響の最終チェックと、バランスを確認する程度で、あっという間に開場時間。
こうしてたった1年で、再びラジオコンサートに招かれたのは、私にとって大きな名誉です。実現に向けて奔走してくれた上海の方々、チケットを買い求めて集まって下さった皆さん、そのすべての人たちと音楽を共有できるよう、夢中で弾く心構えでステージに向かいます。
今日も本当に音楽が好きな方々ばかりが集まっていたに違いありません。失礼ながら、ここが中国とは思えないほどの高い鑑賞能力に刺激され、私自身もどんどん音楽への集中が高まって行きます。
王勇先生の司会は堂に入ったもの。楽曲を丁寧に解説しながら、ちょっとしたジョークを交えて会場を沸かせます。司会トークの間、私は客席を見ながら待つのですが、ほとんど満席に近いお客様が集まっています。そして皆さんとてもいい表情をしているのが印象的でした。
後半はツァオ・レイを迎えてのアンサンブル。これもかなり練れてきて、互いに絶対的な信頼の基、音楽をぶつけ合います。言葉はもとより精神をも超えたコミュニケーションです。
シンフォニーを含め大曲揃いのプログラムを終えた時には、久しぶりに完全燃焼をした爽快な気分を味わいました。
さて、公演の途中、客席からひとりの少女がステージに招かれました。彼女は12歳。昨年のラジオコンサートを聞きに来てくれ、その時の感想を自身のブログに書いてくれたそうです。
「たったひとりの演奏会? それは寂しいのではないかな?」
「日本人?日本から来たの?だって、地震があったばかりなのに?」
そんな一節から始まるブログは、この日の音楽の多彩さや楽しさ、そして私の笑顔や堂々とした振舞いについて書かれており、それを読んだ多くの人の心を動かしたのだと聞きました。
今日もまた鑑賞に来てくれると知った主催者が、ステージに招き、私と引き合わせるというサプライズを用意してくれたのです。
そしてエレクトーンの挿絵が入ったブログのプリントと、彼女が5歳の時に見つけて大切にしてきたというゴビ砂漠の岩を、私にプレゼントしてくれました。
1年前も、そして今日も、私は今持っているもののすべてを込めてエレクトーンを弾いたに過ぎません。私の力などほんの小さなもの。でも、こうして確かに人の心を動かし、大切なものを残してあげることができました。
出会ったすべての人の心を動かせなくても、たったひとりでも何かを感じてもらえたなら、私が生きている意味が生まれます。音楽をあきらめず続けて来て本当によかったと思いました。
終演後に、春爛漫の音楽庁前で王勇先生、ツァオ・レイとともに記念撮影。またこの舞台に必ず戻ってくると誓って、ホールを後にしました。