西日本に春の嵐が訪れた土曜日、空模様を心配しつつも、昼夜2回のさくらコンサートは、いずれも思い出深い演奏会となりました。
山口入りしたのは金曜日の夜。久しぶりにエージェント泉さんとの珍道中です。私にしては珍しく眠れぬ夜を明かし、午前中の仕込みから会場に入ってのコンディションチューニングです。
会場となる山口県旧県会議事堂は、重要文化財に指定されている建物で、山口県庁の敷地内にあります。かつては山口藩庁だったこの地には、往時の藩庁門表門や濠が現存しており、風格を感じさせます。天守閣のない城のような雰囲気。
旧県会議事堂へは濠を渡って正門から入ります。昨年見学に来た時には、こんな空間で演奏できたら素敵だなと思いながら後にしたのですが、こうして願いが実現したことの歓びはひとしおです。
早速、楽器が設営された議事堂に入ってみましょう。議長席と議員席の間にある空間に楽器を置き、スピーカーは議長席両脇にセットしました。今回のPAさんは初対面ですが、誠実でセンスのある仕事ぶり。安心です。まずは、議長席前からの眺め。
エレクトーンの奥から客席を見るとこんな感じ。議員席は立派なビロード張りのイスで、艶やかな木製テーブル付き。空間もたっぷり。後方は可動式のイスを出せる限り出してあります。なんだか、飛行機のファーストクラスと普通席みたい。これほどの差なら、料金を分けるべきだったかも?
でもご心配なく。後方には後方のメリットもあります。会場がコンパクトなので、最も後ろの列でも息遣いまで感じる距離ですし、音が空間を駆け巡って、まろやかになって届きますので、空間全体で音楽を感じたい人には好都合です。
しっかりランスルーリハーサルを行い、会場の響き具合も把握できました。あとは本番を待つばかり。開場前に列を作って待ってくれていた皆さんもいて、場内はどんどん賑やかになっていきます。
コンサートはフォルクローレデュオ「YAMA」のふたりからスタート。中学生と高校生の兄妹が奏でるまっすぐな音楽は、たちまち聞き手の心を奪います。
大胆で歯切れのいいリズム、哀愁のあるメロディー、ぴったりと合った息。割れんばかりの拍手で、ふたりの演奏が終わりました。本番中の写真を撮ったのはエージェント泉さん。おい、YAMAの写真は全部ブレてるじぁないか。
続いて私の出番。本物の若者の前で、いくら若造りしても哀れなだけですから、落ち着きと気品で攻めてみることにしました。でも、昼の部は満員御礼入場制限の活気です。私の気分も次第にヒートアップ。
リッチな余韻が広がる格式高い議事堂にふさわしいようにと、クラシックの名曲ばかりを選りすぐったプログラムは、クラシック通の人にも、ビギナーの人にも楽しんでもらえるよう、十分に吟味しました。
極めて繊細な演奏を求められる作品ばかりを選んだので、私もいつも以上に注意深く、かといって過分に神経質にならないよう、丹念な演奏を心掛けました。アンコール2曲で、熱狂的に盛り上がった昼の部。楽しいひと時でした。
中間の休憩では、実行委員会の皆さんと楽屋で歓談。コンサートの実現に向け、本当に多大な協力をしてくれました。ただ私の音楽を皆さんに届けたいとの一心で、ここまで立派な会を設けて下さったのですから、素晴らしい情熱と行動力です。
実行委員会の皆さんもそれぞれに持ち場がありますので、なかなか打ち解けて話す機会が持てませんが、合間の休憩がちょうどその場として役に立ちました。
さあ、夜の部の開演です。昼に比べるとお客様が少ないのは、ラ・パレットと同じ。でも、昼より夜の方が演奏がいいという現象もラ・パレットと同じと予想されます。
昼も夜も同じように全力投球しているつもりですが、夜の方が俄然集中力が高まります。なぜだか詳しくはわかりませんが、光の状態が影響していることは間違いありません。
そしてお客様が少ない分、しっとりと落ち着いた雰囲気にもなります。この穏やかな空気感が、抑制の効いた演奏を後押ししてくれるのかもしれません。
熱狂の昼、そして風格の夜。どちらも部にも、それぞれの魅力があり、お客様と音楽が一体となった心地よい時間が流れていました。久しぶりに完全燃焼し、また一歩前進できたという実感です。
終演後は慌しく支度をし、後ろ髪引かれる思いで会場を出発。本当なら、こんなに気持ちのよい演奏会の後は、スタッフの皆さんと一緒に乾杯したかったのに、実に残念。
予定の新幹線に乗れないと、翌日のスケジュールに差し支えるので、泣く泣く手を振ってお別れです。雨の新山口駅から最終のさくらで大阪へ。さくらコンサートの後だけに、乗り心地も抜群でした。