エレクトーンでナチュラルな音を奏でるには

今日はエレクトーン演奏に欠かせないレジストレーションについて考えてみたいと思います。

私のコンサートで演奏を聞いた方々のうち、少しでもエレクトーンに親しんだ経験のある人は、相当凝りに凝ったレジストレーションを使って弾いていると感じるかもしれませんが、実は極めてシンプルに仕上げてあります。

理由は簡単です。シンプルなものの方が、より少ない時間で完成させることができますし、演奏中にはより的確なコントロールが可能になるからです。

エレクトーンには、実際の楽器からサンプリングをした高品質な音源が多数揃っており、単純に音色を選ぶだけでも、十分に美しくリアルな音を楽しむことができます。

そのひとつひとつの音源を重ね合わせることで、まるで大勢が同時に演奏しているかのような雰囲気を作り出すわけですが、効果的に組み合わせるには、個々の音源について熟知している必要があります。

しかし、音源を選んで組み合わせるだけでは、レジストレーションは完成しません。個々の音源それぞれに細かいコンディションの設定があるのです。

具体的には音の高さや細かい音程、響き具合、左右の定位、指先の加減でどれだけ音が変化するかの値、その他にもさまざまな効果が設定できます。

これらコンディション設定により、個々の音源の聞こえ方は驚くほど大きく変化し、基の音が何だったかを想像できない場合もあるほどです。

私はこれらコンディションの変更を最小限に留めますが、それは、私が求めるアコースティック感のある音を得るには、元来音源が持っているありのままの美しさを活かすことが最善だと考えるからです。

そして、実際のところ、コンディションを大きく動かして造った音よりも、シンプルなプリセット音の方がはるかにコントロールしやすく、会場が変わって演奏環境が大きく変化した場合にも、余計なことに神経を奪われずに指先での表現に集中できるのです。

あなたが思い通りのレジストが造れないと悩んでいるならば、まずは楽器を信頼することから始めてみましょう。

正しく弾けば、必ず人の心に届く音が奏でられます。求める音色や響きが得られないのは、楽器の設定が悪いからではなく、自分の表現能力が足りないからだと、考えを改めるのです。

子どもたちのレジストレーションを添削していて常々思うのは、とにかく派手にし過ぎだということです。私の経験上、エレクトーンの音色は、派手に作れば作るほど、音楽ホールでは聞き苦しい音になります。

自宅や教室では、本体付属のスピーカーから発する限られた音量の中で稽古するため、少しでも華やかに聞き映えのするレジストレーションにしようという意識が働きますが、実際にな音楽ホールでPAを使えば、音量はいくらでもアップできます。

自宅でちょうどいいレジストレーションは、ホールに行くと過度に派手で、立体感のない平板な音になりがちです。

これまで15年以上ステージで弾き続ける間中、担当プロデューサーやエンジニアには、エレクトーンの音はきつい(攻撃的)と言われ続けて来ました。

エレクトーンだけ弾いている人は、その「厚化粧ぶり」にマヒして、音楽的にどれほどかけ離れた存在になっているのかに気付いていないと言われ、ハッとした苦い思い出もあります。

私はこうした経験の中から、人が長く聞いても疲れない音や自然で心地よい音の出し方を学びました。

このようなセンスを持って子どもたちの造った音色を添削すると、重さや厚みが増し、繊細な部分とダイナミックな部分のコントラストが大きくなります。

それと同時に、単に指先で音をなぞるだけではいい音が出ないようにもなり、必然的にもっと真剣に弾くことになります。

簡単にいい音が出る状態は、一見好都合に思えるかもしれませんが、長い目で見れば子どもの成長を阻むことに繋がります。

子どもはタッチが弱いからと、弱いタッチでも華やかな音が出るように設定してしまえば、その子は努力をする必要がなくなります。でも、自分のタッチが不十分だと自覚すれば、今日この瞬間から克服に向けて一歩を踏み出せるのです。

さまざまな音が出せるエレクトーンですが、本当の音楽的な色彩感や表情は、弾き手の感性と想像力から発するものです。

子どもの能力を信じながら、自発的好奇心を刺激し、本当の音楽力を身につけさせてやりたいものです。