ふだんは自宅や教室でエレクトーンに親しんでいる人でも、発表会やコンクールなど、大きな空間で演奏する機会があることと思います。今回は、そうしたコンサートホールで演奏する際の注意点を解説します。
映えある大舞台で何かを演奏するとなったら、おそらく華やかな曲を選ぶ人が多いことでしょう。あなたは壮大なオーケストラ作品?熱狂的なセッションが続くジャズやフュージョン?完全燃焼できるオリジナル曲?
どれも魅力的です。これぞと選んだ作品を、最高のコンディションで演奏して、ぜひ喝采を浴びて下さい。
それではコンサートホールでの演奏を楽しむためにアドバイスを。まずは、空間による音の広がり方の違いについて知りましょう。
限られた広さの自宅や教室と大ホールでは、音の広がり方に大きな差があります。
ホールでの音のコンディションは、ステージで使われる音響設備の質や、音響エンジニアのセンスにも大きく左右されるので、それらすべてを想定してレジストレーションを作るのは、ほぼ不可能です。
私の場合は、以前にも紹介した通り、空間が変わったからと言って、レジストレーションは一切変えません。リバーブの値すら、よほど特殊な環境でない限りはそのままです。
予測されるどのような状況下でも対応できるだけのタッチコントロールを習得していれば、低音域が響かない会場では低音楽器を長めに弾いたり、響き過ぎる会場ならいつもより鋭く弾いたりするだけで、十分に対応できます。
肝心なのは、実際にレジストレーションを作る環境とホールとの違いを認識すること。
私はレジストレーションを組む際、できるだけヘッドホンを利用します。本体付属のスピーカーは低音域が強調されており、これに合わせてしまうとホールではスカスカな音になりかねません。
また、自宅では華やかで心地よい音に感じたとしても、ホールでは耳に攻撃的できつい音になる場合がよくありますので注意が必要です。具体的には、ブリリアンスの値に気を付け、特にブラスやストリングスなどは、華やかさよりも音の太さを意識しましょう。
次は、エクスプレッションペダルやタッチコントロールによる音の変化幅について。
仮に自宅でエレクトーン本体のボリュームをかなり上げて弾いているとしても、ホールではその数倍もの音量を出します。
多くの場合、マスターボリュームは12時くらいで練習していると聞きますが、そんな小さな音で弾くくらいなら、ヘッドホンで練習した方がいいと思います。体感でマスターボリューム3時の音には慣れておきましょう。
家での最大音量を100と仮定します。すると、ホールでの最大音量は500とか1,000にもなります。
エクスプレッションペダルでは音量をコントロールできますが、家では最小から100までのコントロール幅なのが、ホールでは最小から1,000までとなり、ちょっと動かすだけでもかなりの変化幅になるのです。
タッチコントロールも同様で、自宅や教室で感じるよりも、ずっとコントロール性が高くなることに驚くでしょう。タッチコントロールが正確なら、エクスプレッションペダルはほとんど使う必要がなくなるくらい、幅広く細やかな表現が可能です。
エレクトーン演奏には、不自然なエクスプレッションペダルの使い方が目立ちますが、これは気を付けるべきです。
オーケストラのディミヌエンドというより、DJによるフェイドアウトのようにしか聞こえないことがしばしばあり、せっかく美しい表現をしているのに台無しだと思うことが少なくありません。
タッチコントロールや、節度あるレジストレーションが出来たら、最後に大切なのは、空間と自分が一体になるという感覚です。
とにかく、自分が出した音は漏らさず聞こうという気持ちを持って下さい。遠くの壁から反射して聞こえてくる音や、それに紛れて伝わる観客の咳払いなどもすべて聞きます。
その空間にある空気の分子運動は、すべて自分がコントロールしているのだというイメージで、隅々にまで気持ちを行き届かせます。
あとは、素晴らしい音楽を、聞いている人たちと分かち合うのです。自分だけで楽しむのは失礼ですが、自分が楽しまないのも同様に失礼です。それらが実感できれば、ステージはとても楽しい場所になるでしょう。