Songs from My Heart 2012 summer 渋谷

真夏にしては涼しい日曜日。日本の曲ばかりを集めた演奏会にはもってこいの天気。ありそうでどこにもない心安らぐコンサートは、おかげさまで大盛況でした。

開演は午後3時。リハーサルは12時30分。私は10時過ぎに会場入りし、ひとりで仕込みの詰めを進めるつもりでしたが、実際はそうもいきません。

次第に集まり始めた出演者たちと、段取りを打ち合わせたり、演奏内容について確認したり、リハーサル前にやるべきことに追われました。

ステージでのリハーサルでは、照明や出入りの確認も同時に行います。また、出演者5人が揃って合わせるのも、このリハーサルが初めて。そして、次に合わせる時は本番です。

とにかくバランスをコントロールするための判断材料をひとつ残らず見つけ出そうとする私。使える情報はひとつでも多い方が本番で有利です。

ところが、今回のステージ配置は、エレクトーンが奥にあり、歌い手やフルート奏者が前列に並ぶというもの。また、歌い手の口元や喉が見にくい位置関係だったので、声を聞くことも、動作を見ることも難しい状況です。

それでも、リハーサルが進むにつれ、さまざまな判断材料が見つかり、最終的には困難なくバランス感覚を保つことができました。

リハーサルが終われば、本番まであっという間です。その間に身支度を整え、台本の確認を済ませなければなりません。でも、楽屋を訪ねてくるお客様に挨拶していたら、もう開演5分前。結局、記憶に頼るしかなくなりました。

こうした不安は本番前に払拭しておくべきです。特に今回のように、繊細なプログラムの場合は。

昨日のブログでも書きましたが、シンプルな日本の曲がこれだけ並ぶと、神経にたいへんな負荷が掛かります。

例えるなら、「だるまさんがころんだ」という遊びを、1時間半以上続ける感じ。ちょっとした不注意や計算ミスが、演奏に次々と傷を付けていきます。

演奏会の間中、終始緊張状態にありますが、お客様にはそれを出来るだけ感じさせないようにしなければなりません。これに比べたら、汗が噴き出すような激しい曲を弾き続ける方が、ずっとずっと楽です。

今回は開場前にお客様が3階から1階まで列を作って待って下さるほどの賑わい。それだけ高い期待を寄せていただき、身の締まる思いです。

予定時間にコンサートが始まりました。まずは全員でオープニング。昨夜書きなおした前奏を、今朝になってフルートのお二人に演奏してもらうことにしましたが、二人ともすぐに呑み込んで、いい感じに吹いてくれました。

その後は中安さん、大森さんのソロが続きます。可憐で軽やかな夏の調べを中安さん、情感溢れる秋の風情を大森さん。

そしてフルートの玉村さんと3曲。3人それぞれにインタビューをし、演奏だけではわからない一面を披露してもらいました。

第2部は中川さんのフルートから。曲は春の海。私は琴の音色だけで、琴を思わせる演奏をするよう指示されたのですが、これがなかなか難しい課題でした。

中川さんは、続いてピッコロの演奏も披露。高く明るい音色というイメージのピッコロですが、吹き方次第で、温かくまろやかな音色になるのですね。

その後は、中安さんがナレーションにチャレンジ。赤い靴、赤とんぼにまつわるエピソードを紹介しました。思わず涙を誘うエピソードに、会場は静まり返り、大森さんのドラマチックな歌声が一層引き立ったように思います。

最後は賑やかに村祭。それぞれアンコールにお応えし、楽しい雰囲気の中、終演となりました。

どんなにシンプルでも、音楽はそれぞれ個性的。演奏する楽器が同じでも、人もそれぞれ個性的。

一音一音が呼応して、刻々と表情を変えていくところが、今回の聞きどころでした。同じ瞬間は二度と創れませんが、また同じプログラムで演奏する機会を心待ちにしています。

それから、今回は思いがけない人たちが演奏会に足を運んでくれました。やはり、会場で見守ってくれることが、何よりもありがたいです。