東京の桜が満開となった4月3日、エレクトーンシティ渋谷ではフルートをテーマにした演奏会がありました。5人のフルーティストが織りなすハーモニーと、ナビゲーターの語りで紡がれるフルートにまつわるお話を、エレクトーンが彩っていくというユニークな企画は、渋谷に集まった音楽好きのお客様にたいへんご好評いただきました。終演後も極限まで張り詰めた神経がなかなかさめず、結局一睡もできずに朝になったのですが、気持ちの面では、新しい山に登り、その頂から景色を見る時のような、新鮮な達成感を感じています。
このシリーズの時は毎度そうですが、常に何もかも新しい台本に従って進行するので、生の演奏会でありながら、テレビ番組の収録のような、きっちりとした約束ごとがたくさんあります。私のような放送の世界に無縁の人間には、まったく慣れないことばかりですので、常に緊張と隣り合わせです。自分の演奏のことだけでも、脳と心臓がひとつずつでは足りないくらいなのに、演奏に気を回す余裕はごくわずか。ソロコンサートとはまったく違う環境への適応、進行への配慮、予定外の事象への対処などを優先すると、演奏に向けられる注意はせいぜい10パーセントくらい。つまり、事前の演奏準備を200パーセントの完成度でのぞんでも、こんなはずじゃなかったという結果に泣くことになるのがこのシリーズなのです。
もちろんたいへんなのは私ひとりではありません。共演者、照明や音響のスタッフ全員が、それぞれに全神経を注いで本番を構築していきます。自分のことは自分で。でも、全員が全体像を共有して支えあう。これぞ高度なチームワークです。
台本は100%お客様本位で書かれていて、演奏者を甘やかすことは一切ありません。その点も、叩かれながら育ってきた私には大きな魅力で、過酷であるほどに腕がなります。すべてにお膳立てされた環境で、奏者はただ弾くだけという楽園もよそにはありますが、恵まれた環境を生かして最高の演奏ができるようになるには、厳しい舞台で経験を積む必要があるのかもしれません。タフになれば、それだけ引き出しは増えますし、小さなことでうろたえることもなくなります。
こうして私が果敢に舞台にのぞんでいる時、人知れず支えてくれるのが、私の仲間たち。手が足りないのを見かねてか、進んで受付を手伝ってくれたり、水一滴飲む余裕のない私にコーヒーを差し入れてくれたり。孤独には慣れているので苦になりませんが、支えがなければもっともっと低いところであがいているに違いありませんので、感謝しています。今回もいい演奏会でした。
photo by Takayuki Hoshino