3月24日、私の49歳の誕生日に開催したラパレットのサロンコンサートは、昼夜ともに和やかで心地よい時間となりました。ラパレットの休業が決まったのが急だったので、サロンコンサート開催が決まったのも2月末と、じゅうぶんなご案内をする期間がなかったにもかかわらず、どこからか噂を聞いたお客様がたくさん集まってくれました。行きたいと思っても、都合が付けられなかった方々も多いと聞き、ラパレットとこのサロンコンサートが、大勢の皆様から愛されていたことを実感し、改めて感謝しています。
ラパレットでの初回サロンコンサートは1995年5月14日。以来、多い時で年に4日、5年のブランクがあったものの、21年間でのべ約50日、昼夜2回が基本ですので100ステージ近い機会を持たせていただきました。最初の頃は、定休日にお店を開けてもらい、アフタヌーンティーやカナッペ&ワインと音楽という趣向で。その後、横山シェフの料理と音楽という組み合わせにアップグレードしてからは、これが定番のスタイルに。音楽の方も、私のソロ演奏だけでなく、ソプラノ歌手や器楽演奏家をゲストに迎えたり、さまざまな試みがありました。
初回から一貫していたのは、アットホームな空間で、音楽を間近に感じていただくというコンセプトです。トークはお客様に直接話しかけるような感じで。演奏は細かい息遣いまですべて伝わる距離。コンサートホールのスケール感とはまったく違う、ラパレットならではの音空間です。演奏する側にとっては楽な環境ではありませんが、慣れ親しんだホームグラウンドのような愛着があったので、最終回というのはとてもさみしいです。
この日のプログラムは、朝、店に着いて、お客様のリストを見てから選びました。テーマは思い出と決めていたので、テーマに沿った作品の中から、それぞれのお客様のイメージに合った曲をチョイス。限られたリハーサル時間で一通り弾いて、流れをつかみます。お客様が到着し始めると、私は上階にある控え室に。それから演奏開始まで、昼は2時間、夜は2時間半ほど待機します。このくらい待つと、リハーサルで温めたものは完全に冷めてしまいますので、ニュートラルから本番モードへ一気にシフトアップしなければなりません。また、お客様はお食事が済んで、くつろぎ感マックスのところで演奏開始ですから、通常のコンサートと同等の集中力は望めず、心をつかむのが難しくなります。ラパレットで演奏する度に、ホールでのコンサートでいかに演奏だけに集中させてもらっているかを痛感しますが、この経験こそが私のタフさの源でした。
そして、今回は更に多くのことを学びました。この頃、演奏の安定化と質向上のために工夫を続けていることは、以前にもご紹介しました。中でも体力の制御と維持が重要なのですが、演奏会ごとの体力コントロールについては、香川リサイタルで手応えを得られました。しかし、香川を終え、体力が戻らないうちにラパレットを迎えることになってしまい、その不足をどう補うか、あるいは早急にリカバリする手段を見つけることが次の課題です。
また1日2回の演奏を最後まで安定させるには、体力的なことだけでなく、モチベーションの面でも、工夫が必要です。ラパレットは長丁場です。店にいるのが14時間に及び、弾かずに待つというのもストレスになります。アットホームなサロンコンサートを謳っているのですから、演奏前後のお客様とのコミュニケーションも大切にしなければなりません。馴染みのお客様と久しぶりに顔を合わせれば、ひとことふたことの会話では済ませられません。演奏だけに集中して控え室に閉じこもっていれば、少しは演奏品質が向上するでしょう。でも、お客様とのふれあいを損ねることなく、演奏の質も高めたいので、これからその手立てを練っていきます。
実際、ラパレットを終えて帰宅した時には、立っていられないほどの疲労でした。でも、翌朝5時には稽古を開始しなければ、以降の演奏会にどんどんしわ寄せが行くという見通しなので、サボるわけにもいきません。香川へ出発する時の体力を100とすれば、ラパレットへ向かう朝は80、そして今日現在は60という感じ。なので、今日は夕方で稽古を切り上げ、ちょっとご馳走を食べてきます。ステーキでも食べて元気モリモリで、明日米子への旅に出発します。
最後にちょうど20年前、1996年3月26日のラパレットサロンコンサートで、準備中の写真をご覧ください。