冷たい雨にしっとりと濡れる上海。傘をさしてプラタナス並木を歩けばロマンチックな気分に。ただ、インドネシアの熱帯気候から、一気に秋に移った感じなので、温度差で体調を崩さないよう気を付けないと。そう思いながら向かったのは上海の名門音楽校、上海音楽学院です。
上海音楽学院(略して上音)はツァオレイの母校。私の弟子が上音への留学を希望しているので、詳しい説明を聞くために訪ねました。もちろん、優しいツァオレイも、そして同じくこちらの卒業生であるラジオコンサートのプロデューサーまでもが同行してくれ、頼もしい限りです。
私は音楽大学で学んだことがありません。中学生の頃、どさくさにまぎれて東京芸大をうろちょろしていましたが、音大生ライフは経験したことがないのです。それもあって、校門を通っただけでワクワクした気分になりました。
上音は旧フランス租界の洒落た街にあって、東京で言えば青山学院のような雰囲気が漂います。郊外にある中国式メガスケールの大学とは違い、都心のこぢんまりとした敷地ですが、芸術薫る街に溶け込む環境は、アートを学ぶのにうってつけ。キャンパス内を歩く学生たちも、都会的で洗練された印象です。
敷地内には建物が点在。木造階段のある旧舎も今なお使われており、歴史の深さを感じさせるかと思えば、近代的なタワーがレッスン会場だったりします。まずはエレクトーン科の先生に会いに、タワーにあるアトリエへ。
にこやかに迎えてくれた女性の先生には、威厳も漂います。アトリエには3台の電子オルガンが。2台はYAMAHA製ですが、初めて見る他社製品もあります。挨拶が済むと、私は早速その他社製品に興味を引かれ、触っていいですか?とおねだり。
仕組みはステージアによく似ていますが、鍵盤のタッチ感も音色もまったく違います。やっぱり私はYAMAHAの音が好きですし、ステージアは実によく出来た楽器だと改めて思いました。
こんな風に楽器を軽く触っているだけでも、先生との距離がどんどん近付いていくのがわかります。言葉を交わすより、音楽で感じ合う。これこそが音楽家同士のコミュニケーションです。その結果、私が「演奏」と呼べるものを披露することがなくても、私のことをだいぶ理解してもらえた気がしました。
でも、今回は私を売り込みに来たわけではありません。弟子の道を拓いてやることが重要です。本人は演奏を披露し、中国語で挨拶もしました。本気でここを目指していることはしっかり伝わったと思います。
その後は留学生を扱う事務方のボスを訪ねて旧舎へ。こちらでも、たいへん丁寧な対応をしてもらえました。入学試験までに必要なことや、それに向けてサポートできることの説明など、決して事務的ではなく親身に考えてくれているのがありがたいです。
これで何をすべきかが見えたので、あとは本人が夢をつかむために努力を重ねるだけです。異国の若者のために時間と労を惜しまず注いでくれる中国の人と接しながら、正直、このタイミングで上海に来れば、ちょっぴり意地悪されるかなと構えていた自分がいたのがとても恥ずかしく思えました。
ホッとしたところで、ツァオレイやプロデューサーも一緒にランチタイム。店はツァオレイが選んでくれた「農園飯店」という香港系の店です。とても清潔で、モダン&豪華。それでいて料理は家庭的かつ手頃なプライスです。
鮮やかなキュウリの前菜からスタートしたランチ。ちょっと胃が疲れていると言ったら、ツァオレイが胃にやさしい料理を中心に選んでくれました。
4人で9皿。あまり色気のない取り合わせながら、和気あいあいと楽しいランチになりました。若者の未来にカンパイ。
(そしてこのブログは、今回で開設から1,000エピソードを数えました。いつもご愛読ありがとうございます。)