由緒ある寺の本堂での演奏会。コンサートホールも私たち音楽家にとって神聖な場所ですが、今回のように心や魂が行き交う空間での演奏には、特別な緊張があって、昨晩は眠れませんでした。雨が上がり、朝には爽やかな青空。くよくよせずに、いつも通りの演奏をしようと決め、延命寺に出発しました。
午前10時の約束より少々早めに到着すると、すでに今回の演奏会の一切を世話してくれている方々が準備を進めてくれていました。エレクトーンの下には赤い立派な毛氈。靴のまま登場できるようにと、歩く動線にもカーペットを敷いてくれています。
エレクトーンの配置も、スピーカーのセッティングもパーフェクト。あとは弾くだけの状態で迎えてくれたのです。エレクトーンは本堂の中央、内陣に掛かる位置にセットされました。お客様はエレクトーンを取り囲んで座れるよう、敷物やイスが準備してあります。
ここにお客様がお入りになったら、どんな雰囲気になるかを想像しながらリハーサルを。私の視線の先には仏像や仏具があり、見上げれば黄金が降りそそぐような眺めです。
弾きながら不思議なことに気付きました。使用しているスピーカーは極めて指向性が強いタイプなので、通常はスピーカーが向いているラインから離れると、とたんに音量や音質が落ちてしまいます。
ところが、本堂の天井が高く取られていることと、内陣の天井に囲いがあることで、音が程よく伝わっていきます。加えて仏具の数々がうまい具合に音を反射するらしく、本堂全体に音楽が響き渡っていました。これなら音質を心配せず演奏に集中できそうです。
一通りのプログラムを弾き終えて、ランチタイム。蕎麦好きの私にはたまらない手打ちそばをご馳走になりました。
シンプルなざるそば。量的にも演奏前にちょうどよく、つるりと平らげました。そば湯で体が温まったところで、本堂に戻り、最終的な調整を。プログラムには難曲が多く入っているので、まったく気を抜けません。
開場時間は13時30分ですが、早いお客様は13時頃にいらっしゃいました。私は控室で支度をして出番を待ちます。いよいよ開演時間となり、本堂へ。リハーサルを終えた時には、誰もいなかった本堂が、あふれんばかりのお客様で賑わっていて、私の方が先に圧倒されました。
見渡すと、小さな子どもからご年配まで、さまざまな方々が集まっています。コンサートホールまで出掛けるのは難しいお年寄りも来てくれ、始まる前から今日は心の通う演奏会になると確信しました。
ワールドクラスの演奏会をとのリクエストを受けて用意したプログラムは、海外招聘コンサート同様の濃密さ。今私にできる最高の演奏をお届けするつもりで決めたものです。
お客様との距離が近いので、皆さんと一緒に音楽を共有している感覚も強かったですし、皆さんの表情がよく見えたので、おひとりおひとりと対話しているような気分でした。
延命寺の皆さんや世話役の皆さんの思いがカタチになったのが今日のコンサートだったわけですが、その思いに支えられていたからこそよい演奏ができたのだと思います。
まごころこもった「寺」コンサートの第1回目に出演させていただき、光栄でした。ぜひ末長く続いていくよう願っています。