年末が近づくにつれ、駅前が気分が高揚した若者たちで埋め尽くされる下北沢。私には無縁だった街ですが、とあるライブハウスでのパフォーマンスを楽しむため、意を決して出掛けて来ました。
目的のライブでパフォーマンスをするのは、piqueというバンド。ステージとなるライブハウスはMOSAiC。どちらも、ふだんの私とは縁のない世界です。
なぜシンガポールからの帰国を早めてまでこのライブを見たかったかというと、私にとってはファミリー同然の人が出演しているから。
それはベースを弾いている永井双樹という男です。私が彼と出会ったのは、彼がまだ学生の頃、エレクトーンシティ渋谷に音響スタッフのアルバイトに来ていた時のこと。
エレクトーンシティにはいろいろな人が出入りしますが、彼はミュージシャンとして伸びる何かを持っているなと直感し、何度か私の演奏会の手伝いを頼んだことがあります。それが縁で、私の弟子たちとも親しくなり、いつしかファミリーの一員として親しまれるようになりました。
私の音楽と彼が目指すものは、まったくの畑違いですが、夢をつかむにはどう進むべきかや、同レベルの群にまみれるなといった教訓を、彼なりの野性的な勘で私の中からつかみ取っていたように思います。
音楽は全身で、いや全細胞で楽しめ。自分が納得できる居場所が見つかるまで、絶対に諦めるな。私が彼に教えてやれたのは、そのくらいです。
そんな彼から久しぶりにライブの案内が。新しいバンドでの、自主企画ライブなのでぜひにとの誘いに、私は必ず行くと約束したのでした。
ライブ会場は雑居ビルの地下。ライブのコンセプトは「おかしのいえ」。バンドメンバーによるオリジナルの装飾、ゆかチョフさんによるイラストレーションの展示など、トータルでの雰囲気作りにも余念がなく、開演前から気分が盛り上がります。
ホールはオールスタンディング。50人も入ればいっぱいのコンパクトなスペース。静寂の中、イメージ映像が上映された後、幕が上がりメンバーたちが登場。そして初めて聞く音楽がスタートしました。
少年少女のようなルックスとは対照的にシビアで情念のこもったワード。70年代歌謡やシャンソンを思わせる旋律やリズム。そんな狂おしい世界の中に、どこまでも昇天していく羽根のような軽やかさが潜む音楽。
歌うのはヴォーカル&キーボードの中村ピアノさんですが、ドラムスの杉本賢二さんも永井も一緒に全員が歌っているかのような一体感。ドラマチックな間の取り方に熟練を、自然体なトークには誠実さを感じました。
永井はいい居場所を見つけたなと、私は長いこと会わなかった息子の活躍を見るような思いでライブハウスを後にしました。
永井のみならず、一時期私のファミリーでいて、自分の居場所を見つけて巣立っていた人がたくさんいます。もう連絡が途絶えている人も少なくありませんが、チラシやメディアで名前を目にする度に、ああ活躍しているんだな、本当によかったと、胸がギュッとなります。