山口宇部空港に到着してまず驚いたのは、空港の大混雑ぶりでした。聞くと、学生の駅伝大会があるからだとか。そういえば、昨年も第九演奏会で山口を訪ねた時、同じイベントで大混雑だったことを思い出します。

さぁ、今夜は山口でのクリスマスコンサート。山口は日本のクリスマス発祥の地とされ、クリスマスには特別の思い入れがある街です。

私にとって今年2回目の山口ソロですし、もう何年も続けて演奏会をさせてもらっていますから、ビギナーズラックは通用しません。本気で最高の演奏をお届けしなければ、お客様は満足して下さらないでしょう。

今日はあいにくの雨。途中、蕎麦で軽いランチをした以外は寄り道せずに、会場となるラ･フランチェスカへ直行です。ダイニングホールでは、すでに模様替えが進められており、実行委員の皆さんは受付の設営など、準備に余念がありません。

山口コンサート実行委員皆さんのは、ふだんはそれぞれに仕事を持っていますが、コンサートの時には一丸となって毎回全力投球で取り組んでくれる頼もしい方々。今回も張り切っています。

何しろ、今日のコンサートは定員80名様のところ、ご好評と実行委員の熱意の相乗効果で、40名オーバーの超満員が予定されています。ラ･フランチェスカの全テーブルとスペースを使って、お客様全員分のお席を設営。

席は、テラス、奥のセクション、メインホール。お客様には窮屈な思いをさせてしまいそうですが、それを苦痛に感じさせないよう、演奏の質を高めたいところです。

私はというと、残りスペースもわずかなため、写真のように壁にぴったり寄り添って弾くしかありません。PAスピーカーとエレクトーンはほとんど並行。自分の音を聞くには不都合のある環境です。

でも、音響さんは4月のコンサートでもお相手してくれた方で、その時もいい感じの音を作ってくれていましたから、今日も信頼してお任せすることに。私にいい音が聞こえるようにするより、お客様の心地よさを優先するよう頼みました。

会場が横広、かつ柱もたくさんあり、音響を均一にするのは不可能。天井が低く、響きもよくありません。どうしても場所によって幾分の差は生じてしまいますが、この環境にしては、どの席でもさほど不満を感じさせない音作りをしてくれました。

お食事は17時30分より。ふだんはコース料理が中心の正統派レストラン。でも、食事と演奏込みで5,000円というスペシャルプライスを実現するために、お店にも多大な協力をいただいたと聞いています。

1時間程度でコーヒーまでをお出しできるメニューをと、お店が献立を練ってくれたこともあって、ディナー付きイベントとしては滞りなく、いい時間の進み方でした。

お客様が食後にほっと一息ついたところで、演奏のはじまり。拍手で迎えられて、楽器にスタンバイする私。座ってみると、お客様が極めて近いことに改めて戸惑いを感じました。バタバタとアクロバットな弾き方ではなく、水しぶきを上げない飛び込みのような演奏をしなければ。

最初はお客様も落ち着かない様子でしたが、演奏が始まってからほんのわずかな間に、会場全体が演奏会モードにチェンジ。そうなれば私は水を得た魚です。思いのままに弾きまくりました。

お客様の集中力は天下一品。その上、乗せ上手です。私は気分よく2曲のアンコールにお応えし、トータルで1時間40分近い演奏を披露しました。

もうひとつ素晴らしかったのが、店のスタッフたちです。演奏中は、まさに洗い物や片付けに打って付けのタイミングなはず。でも、厨房やバックヤードから、一切の物音が聞こえることがありませんでした。

当たり前のことのように思われるかもしれませんが、これは相当の一流ホテルであっても、あんがいお構いなしに作業を進めるところが多いのです。その点、ラ･フランチェスカのスタッフは、演奏の邪魔をしないどころか、手助けをしてくれたように思いました。

帰り際にマエストロ！と声を掛けてくれたお偉いさん、うちにもステージアがあるのにこんな音は出ません！と驚いてくれたおねえさん、私もピアノやってるの、頑張るねと声を掛けてくれた女の子。

クリスマスソングは1曲も弾きませんでしたけれど、音楽そのものが私からのクリスマスプレゼント。皆さん、その音楽を胸に幸せそうに会場を後にしていました。

今夜はラ･フランチェスカに2室だけある宿泊ルームに滞在します。会場と部屋が近いのは本当に便利。そして安心です。終演後はシェフが私のために作ってくれた料理が部屋に届けられました。

お疲れ様プレートとでも題しましょうか。心地よい疲労感にぴったりで、胃にもやさしい、そして目にも楽しいお料理です。シーフードと有機野菜がたっぷり。デザートはパンナコッタでした。ごちそうさま。

明日は旧県会議事堂でのアフタヌーンコンサート。今日の気分のままいけば、絶好調の演奏をお届けできそうです。