体調不良を押し切って食事に出掛けたのは、友人の話を真面目に聞くため。こういう時は、話の内容に気を取られて、料理の印象は薄くなるのが常です。でも、今回は時折友人の話が耳に入らなくなるほどの素晴らしい料理ばかり。久しぶりにゾクゾクするような味わいに出会いました。
コンラッド東京のGORDON RAMSAYは、どちらかというと通い慣れた店ですが、実のところ1年以上ぶり。すでに馴染み深い給仕の顔はなく、やや心細く感じたものの、新しい給仕長のサービスもなかなか見事。たちまち不安は消えました。
3種類あるコースのうち、最も品数の多いプレステージをチョイス。病後ですので、アルコールは控えてシャンパンをグラス一杯だけ。ワインと合わせたら、一層味わい深くなるはずですが、今回は我慢。
シャンパンのお供にフィンガーカナッペ。
アミューズはカリフラワーの軽いクリーム。雲のようにふわふわ。下層には甘エビとキャビアのタルタル。甘みと塩気のアンサンブルがいい感じ。
パンは料理に合わせて1種類ずつ運ばれてきます。まずはトリュフを練り込んだ円筒形のパン。リッチな香りです。
冷前菜は、フォアグラと鴨もも肉コンフィのプレス セップ茸 へーゼルナッツ マデラ酒と黒胡椒のゼリー。黒い石皿に和モダン的センス。舌に載せる位置や量で微妙に変化する味わいを感じわけるのが楽しい。
温前菜は、毛ガニと帆立のトルテリーニ キャビア 根セロリ シャンパンのヴェルーテ。皿が置かれて最初に香ったのが根セロリ。そこから蟹まで、青から赤への香りのグラデーションが。
団子のようなものは、3つの鐘を意味する小麦の風味豊かなパン。
魚料理は、甘鯛の松笠ポワレ コック貝のピペラード マルセイユドレッシング フュメ・ド・ブイヤベース。魚介風味が凝縮したソースに、香ばしい甘鯛。古典的な魅力たっぷりの一皿。
3種類目のパンはおにぎり型。ポルチーニ茸の風味。
メインディッシュは華やかな銀縁のガラス皿で。阿蘇あか牛フィレのロースト テールのブレゼ 広畑野菜の田舎風 テールと牛骨 トリュフの香るコンソメ。まず肉がいい。その旨みを邪魔しない数々の味の仕掛け。ソースも素晴らしい。
アヴァンデセールはクラナカン。オートミールとハチミツ入りのフレッシュクリーム、フレッシュいちご。スコッチのほのかな香りが心地よい。
デセール1皿目は、焙煎ナッツのスフレとバナナライムアイスクリーム。ミニサイズながら存在感あり。
最後にアールグレイのパルフェ リコリスとチョコレート ハイビスカスのグラニテ。甘くも刺激的なバカンスのような味わい。グラニテの濃厚な赤はルビーのよう。
いやいや、実に美味しかった。一皿ごとに料理人の思いがしっかり込められているので、料理が自然と語り掛けてきます。ゴードンラムゼイのレシピが基本なのだろうけれど、この店のシェフのセンスと腕から伝わるものの方が強くなっているように感じます。
サービスはグランメゾン級の洗練度。ここは本当にモダンラグジュアリーホテルのダイニング?そこに期待する域を圧倒的に超えて満足させてくれました。
最後の紅茶一杯。カップへの注ぎ方も美しいですし、かげば香り高く、口にすればやわらかく、これなら英国人でも満足するに違いありません。立派な料理を出す店でも、最後の茶で一気に興ざめという経験を何度もして来ましたが、一杯の茶にこれほど感服するのは稀です。いい夜でした。