とある春の夜。友人の誘いで六本木へ。久しぶりに賑わう街へ繰り出したこともあり、わけもなく緊張。でも、ヴァンサンの扉を入ると、そこは別世界。ようこそ、美食の楽園へ。いつも通りに佇む調度たちからは、そんな言葉が聞こえてくるようでした。
今年もまたアスパラガスの季節。毎回、その時のインスピレーションで仕立ててくれる城シェフのコースには、クラシックな美味しさがたっぷりと詰まっています。
東京は世界有数のグルメシティですから、美味しいものは数知れず。斬新なアイデアを盛り込んだ料理や、モダンな盛り付け、飾らないスタイルなど、興味は尽きません。でも、何度も通いたくなるような店には、なかなか出合えない気もします。
最初はハッとさせられても、2度目からは驚きもなく、段々と画一的に見えて来てしまう。そんな下手な手品みたいな店ばかりが溢れ、でもそれなりに盛っているのが今の東京です。
ヴァンサンの料理には毎回素敵な驚きがあって、テーブルに運ばれた皿を見た時、一同の顔がパッと華やぎます。その後、一口味わうごとに「そうそう、この味」と、安心感や懐かしさが広がります。
本当によい料理は、奇抜なアイデアや風変わりなアレンジだけでは出来上がりません。そこには日々積み重ねた熟練の技や卓越した感覚が必要です。
もう何年もアスパラガス料理を作ってくれているのに、一度も同じ皿が重なったことはなく、いつも無限の可能性を楽しませてくれる城シェフ。本物の料理人がここに。
帰り際、別のテーブルの見知らぬお客と目が合いました。「あなながたも、とっておきの食卓を楽しみましたね」「あなたもね」。言葉はなくても、そんな思いを通わせながら、互いに微笑みました。